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長谷の竈 製作記(5)

 

これは、2022年長野県伊那市長谷中尾集落にある再生された古民家につくったご飯炊き専用竈「長谷の竈」の製作記です。
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日本の釜戸は歴史的に古く、日本列島では旧石器時代から縄文弥生にかけて育まれてきた炉から派生した釜戸のようなもの(学術的には類釜戸と呼ぶ)と古墳時代あたりに朝鮮半島経由で完成された形で入ってきた釜戸が融合してできものらしい。煮炊き道具としては2000年近く使われてきたわけだから、現代に至っては完成された道具と言っていい。とはいえ「飯を炊く」ことに特化しているかと言えば、そういうわけでもない。あくまでも煮炊き全般に使う汎用性の高い道具と考えるべきだろう。じつは小谷氏と僕は、かねてからそこに注目し、飯炊き専用の釜戸とは、どうあるべきかを考えてきた。

外硬内軟。どこの辞書にも載っていないスイハニスト独自の四文字熟語を、僕がワークショップで連呼するのには「田んぼからお茶碗まで」つまり栽培から炊飯のすべて技が、この漢字四文字の表すご飯の質感(食感)に集約するために磨かれてきたからだと考えているからです。ゆえに我々が最終段階である炊飯には専用設計の釜戸がほしいと思うのはごく自然なことだった。

日ごろ炊飯と言っている煮炊き法の正式名称は「炊干し法」といい「煮る、焼く、蒸す」3つの加熱調理法を水加減と火加減で連続的に行う世界的に見ても稀な米調理法です。その過程の中で外硬内軟食感をつくるうえで最も重要と考えるのは「煮る」工程。ことに沸騰到達時間はカミサマの時間と表現したくなるほどに、この時間の釜内の温度推移で食感が決まると言っていい。その温度推移を薪の燃える熱量でリニアにコントロールしたい。それが小谷氏と僕の考える理想の釜戸なのです。

そして今回、後に「長谷の竈」と呼ぶことになる釜戸は、それらを踏まえて小谷氏が設計したというわけです。とはいえ、僕はそれだけでは物足りないと考え、設置する長谷という場、そこで活動するWakkaagriの面々とその活動。そういったそこにしかない何かを投影するような造形で、長谷の竈を作りたいと考えたわけです。(つづく)
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画像上:薪が燃える最高温度は800℃にもなるという。
画像中:竈本体はシンプルながら凝った内装を持った専用設計。設計製作は小谷氏
画像下:10月24日初回の炊飯実験。ご飯の出来はイマイチだったが釜戸の個性が少しわかった。

2022年05月13日 [ 1059hit ]
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