旅する羽釜 3 [地図表示]
2013年7月8、9日、フランスのシャンパーニュ地方にある中世の古城、フェール城で行われた能フェスティバルに参加し、羽釜スイハニング(炊き)、おむすびをつくってきました。これはそのレポートです。
旅する羽釜 3
フランスでスイハニングする。
しかも、できるかできないか?いや、やっちゃっていいのか?
そんな曖昧な状況で前線基地ランスに到着した。
初めてのフランス、それもいきなり始発の地下鉄に乗り、パリ東駅まで歩いて見た早朝のパリのあまりの汚さに閉口したが、到着したランスはそれとは逆にとても美しい街だった。まあ、噂に聞く犬の糞とタバコの吸殻は減りはしたものの、やっぱりあるにはあるのだが・・・。
そんなことよりも気になっていたのが水だ。今回はニッポンのお米をフランスの水で炊き、フランスの塩でむすぶ、ここでしか味わえない塩むすびが作りたかった。塩はいいとしても、エビアンに代表されるようなあの硬い水。炊いて炊けないことはないのだが、食感が気になった。せっかく羽釜持参でニッポンの米を炊くのだから、できれば軟水がほしかった。
出発の一ヶ月前の6月9日、フランス在住歴のあるAさんに出会った。藁をもすがる思いで、色んな質問をし意見を聞いた。そしてパリ在住の2人の友人を紹介してもらった。一人は日本語ベラベラのフランス人のNさん、もう一人は日本人のYさん。さっそくメールとFBでやりとりをした。Nさんは言葉で困ったら電話でアシストしてくれることを確約してくれた。Yさんはフランス国内で買えるもっともやわらかい水を調べてくれ、ランスにあるNATUREVAという自然食品店へ「8日の月曜日、フランス語のぜんぜんできない日本人が行くから12リットル用意しておいて・・・」と電話で手配までしてくれた。
一度も会ったことのない人たちがこのミッションを面白がって手伝ってくれてた。不思議なことだが思いは通じる。これはきっとスイハニングできる!と漠然とだが確信をもった。ところがである・・・。
ランスに着き、ホテルに荷物を預け、食事をすませてから、地図を見ながら徒歩でNATUREVAに行ってみた。店はランスのノートルダム寺院の裏手から15分くらいの通り沿いにあった。ところが月曜日は14:30から営業で店はまだ閉まっていたのだ。(ガ〜ン)すでにこの時点でそうとう気温が高く、睡眠不足と相まって同行者の一人がダウンしてしまった。仕方なくホテルへ戻り、フェール城用に荷物を整え14:00に田中隊員と2人で再度NATUREVAへ行った。途中フェール城のある最寄駅までのアクセスをインフォメーションで確認したら最終の電車がランス駅発17:30ということがわかった。この段階で雲行きが怪しくなっていたのだが、とにかく羽釜と米を担ぎ、NATUREVAまで歩いた。店は開いていたのだが、ここでまた予想外のことが起こった。
店の女性スタッフに英語で話しかけると「困った顔をした」もちろん僕のええかげんブロークン英語が原因かと思ったがどうもそうじゃなくて本当に英語がダメってことらしかった。それでも「フランス語のぜんぜんできない日本人が行くから・・・」と聞いてるだろうと思い必至にアピールしたのだが一向に困り顔。その状況を横で見ていたベルギー人の女性ツーリストが助け船を出してくれた。
「通訳しましょうか?」
僕らは必至になってその女性に、こんな感じで英語で伝えた。
「僕らは日本人、友人のYさんはパリに住んでる。Yさんが電話で注文したこの店に、先週、水、12リットル・・・mont calm ありますか?」
通訳するやいなや店のおばちゃんスタッフの一人が、「あ〜」って顔をして奥からカーゴに入れて水を運んできた。そのやりとりでかなりの時間を要して店を出たのが16:30よくよく考えたら12リットルの水は12キロの重さがある。羽釜と米、それと水、正確に言えばこの他にザルとボール、そして電子計りも持っていた。タクシーを拾うと思ったが一向に止まる気配がない。(フランスではタクシーは電話で呼ぶもので道で拾うものではないらしい)そんな時、さっき通訳してくれたベルギー人女性のクルマを発見した。そこで駅まで乗せてってくれないかと頼んだが、子ども連れで荷物も満載なこともあり、申し訳なさそうな顔をしていたので諦めた。
まず落ち着こうと思い水を呑んだ。それからその光景をスマホで撮った。
それをFBにアップし、こんなキャプションを入れた。
「軟水をようやく調達するも…フェール城遠し@ランス16時30分」
すかさず友人のSくんのコメントが入った。
Sくん「何処にいるですか!??」
僕「フランス」
Sくん「負けた・・・」
負けてるのはこっちの方だよ〜という気分だったが返信しなかった。
仕方がないので荷物を両手にぶる下げてホテルまで歩いた。10メートル歩いては休み、また10メートル歩いては休んだ。日差しが強く焼けるように暑い。意識はしっかりしているのだが今日のミッションは無理だなと思った。もし今日フェール城に行けたとしても、お米を水に浸す時間が足りない、ベストスイハニングは不可能だと悟った。それに体調の優れない同行者のことも気になった。よくよく考えてみたら静岡を出発してから、すでに30時間ほとんど寝てないことにも気づいた。そんな状況で正しい判断ができるとはとても思えなかった。ここは安全を優先して撤退し、しっかり睡眠をとって仕切り直して明日のミッションに備えようと決めた。
ESI田中隊員と大汗かきながらノートルダム寺院の脇道を歩く。
その光景を不思議そうに見る近所のマダムの視線を感じつつ、二人ともヤケクソ的元気でゲラゲラ笑いながら歩く。
「今のこの状況ってさ、きっと語りぐさになるよ・・・だってさ、もう目つむってもノートルダム寺院の周り歩けちゃうぜ。俺たち・・・」
つづく
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画像上:ランス、ノートルダム大寺院
画像中:NATUREVAの前、FBでアップした画像
画像下:ノートルダム寺院の脇道、2日後の朝、ESI田中隊員ともう一度歩いてみた。カルディナル・ド・ロレーヌ通り。
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住所 | Cathédrale Notre-Dame de Reims |
2013年07月24日 [ 5162hit ]