8月20日あさひの夢。ちょうど出穂(穂が出る)直後。お盆くらいから夏が帰ってきた。日照を浴びる稲の姿をじつに気持ちいい。
7月から隣町の藤枝へ月に2〜3回配達に行く仕事ができた。どんぶりの専門店、外食の新規のお客様である。この仕事のおかげで、松下の田圃の様子を頻繁に見ることができるようになった。以前なら1ヶ月に1回がせいぜいだったが、10日に1回見ることができるのだ。配送コストの面を土返ししても、これだけの回数田圃通いができることは、私にとってメリットだと判断し、この仕事を請けることにした。
じつは今回のレポートは8月10日に田圃へ行った時の記事を書くつもりだったが、2度の長期東北出張やら、地震やら、お盆休み(休みなのに休みに非ず)やらで、忙殺され気がついたら、20日以上も過ぎてしまった。 というわけで、今回はこの8月の田圃通いをまとめて書こうと思う。田圃の画像も様々な日が混在していますので日付を記しておきました。
さて、ご存知のとおり、7月から8月初旬の日照不足は様々なところに影響しています。それらはとりもなおさず野菜など商品の価格に影響し、経済そのものを大きく動かす要因となっているのです。
昨晩もある宴で、友人のサンダル製造メーカーの社長氏曰く、「今年はぜ〜んぜんダメ〜」と、焼酎飲みながらぼやいていました。涼しいとサンダルは売れないというわけです。
稲の種子、要するに米もまた商品作物であるから、その作況は経済に与える影響は大きい。テレビ報道で「今年の作況指数は?」なんてネタがニュースになるのが良い例である。
しかし私の場合、そういうマクロ的な視点だけで、稲(米)を見ないようにしている。あくまでも自分の足と手と目と耳で得た情報を大切にしている。10日にいっぺんの田圃通いと長期の生産家回りが重要な理由はこういうことだ。
8月10日カミアカリ、例年より草丈が長く、見た目はスリムで格好いい。ただし収量は相当に少くないと見た。
「草丈が高くて格好いいな〜山田錦みたいだな〜」。
ちょうど留守だった松下に携帯でそう伝えると、「ああァ・・・日照が足りね〜からな・・・」という返事。日照不足は稲の姿をスリムにするらしい。
9月中旬に収穫予定の早生品種(カミアカリ)の背が例年よりも高く、穂の数も少ない、疎植(密度の薄い田植え)の上にそんな姿なので、スカッとしていてじつに清々しい。それは稲の生命生理的に言えばけっして悪いことではないが、稲作ビジネスとして収量の減少は生産家にとっては、そのまま収入減につながる。
松下の場合、反収7俵(300坪で420キロ)以下という品質重視で、かなり絞った栽培計画なのだから、それを下回ることは辛いことだ。そこでアンコメは毎年それなりの価格で買うことで、松下の農を支える義務を負っていると思っている。
とは云うものの、やはり品質が良く、味も良く、かつまた収量も計画どおりに仕上がることが一番に決まっている。だから空を見上げ、太陽の恵みに、ただひたすら期待するのだ。
8月20日あさひの夢、グワっと上部が開いた形はイネ科本来の姿。野生的でたくましい感じがする。
いっぽう中生品種の代表格、松下有機農法の十八番とくれば、「ヒノヒカリ」と「あさひの夢」の2種。
8月10日「ヒノヒカリ」は生育にややムラがあったが、20日時点ではすっかり回復している様子、まあ順調と見て良いだろう。
「あさひの夢」は今年も相変わらず元気そのものだ。葉をいっぱいに広げた姿は、イネ科植物のルーツを見るようだ。こういう中長距離ランナータイプこそ、松下有機農法向きだと認識しているが、こういう日照不足の年はよりそれを実感する。
これら2品種が、ちょうど出穂(穂が出ること)時期の前後に日照も回復、天気も良くなってくれているので、一安心。しかも夜温がぐっと落ちていることで、これからを大いに期待したい。
収穫は9月中旬、早生品種からいよいよ収穫スタート。順調に進めば、中生や晩生はそれに続き10月初旬〜中旬頃に収穫する予定。とにもかくにも残り一ヶ月余の太陽の恵みを期待するばかり。
一年一作、こういうことを毎年毎年繰り返し2000回もの長きに渡り、この列島に住む民は続けているのだ。松下は、そのうち25回の経験でしかない。これを多いと見るか、少ないと見るか?人生はあまりにも短く、時間はあっという間に過ぎ去って行く。
8月10日手前が「ヒノヒカリ」奥が「カミアカリ」。どんよりとした空、この時点での日照は明らかに少ない。しかし気温はそれなりだから、土中の微生物たちの活動は悪くないはずだ。ただし日照がないことは、病気を誘発する原因を作る。松下は云う。「照らない心配より、照りすぎる心配のほうがよっぽどいい・・・」。松下にとっての26回目の作品は、もうすぐ結果が出る。どんな年もその年の作品。こんな曇天であっても、その年にしかない味わいがそこに現れる。水田稲作偉大なり!