豊年エビ、見損ねた。
出現のピークは6月中旬から7月の第1週。
近頃いろんな田圃でも見かけるようになったとはいえ、ここの田圃に出現する量は半端でない。
僕は毎年その出現を楽しみにしていた。
ところがちょうどその出現ピークの頃は何かと忙しかった。
いつもなら月に2度は見にいくのにもかかわらず一度も行くことができなかった。
見損ねてしまった。遠くの田圃を旅をしていたんだ。
津軽で見た広大な田んぼ。熊野で見た細かな棚田。
テレビの天気予報で見るニッポン列島は小さいけれどじっさいこの島はとてつもなく大きい。
しかも色んな田圃があって、いろんな稲があっていろんな生き物がいて、もちろんいろんな生産家がいる。
よく見ればひとつひとつ表情があって同じ顔はふたつとない。
そんな気づきの始まりはここだった。
日焼けは覚悟、ただし田んぼを渡る風は心地いい。
今年アンコメが関わっている品種は、カミアカリ、いただき、にこまる、あさひの夢。早生から中生まで4種。
10年間作付けしていたヒノヒカリは引退し「にこまる」にそのポジションを譲った。
今日はそのひとつひとつを見て回った。
密植せず粗植であるがゆえに稲という植物が本来こうであっただろう姿。
真上から射す太陽光をいっぱい受けとる姿。とくに「にこまる」のそれはお気に入りなんだ。
背が低いこと、分けつ数もほどほど。株がしっかりしている。
量を獲ろうとすればできる品種ながら抑制されている姿はいい。
小柄で筋肉質なアスリート。そんなイメージ。
人は土を作れない。
カミアカリの田んぼには、足のはえたおたまじゃくしがたくさんいた。
畦を歩くとその振動で畦草の影で涼んでいたおたまじゃくしが一斉に飛び出してくる。
梅雨明け十日、田圃を渡る風は心地よいが田圃の水はかなり温められいた。
一日のうちで一番暑いこの時間帯はおたまじゃくし達も休息中だったらしい。
畦にしゃがみこんでじっと見ているとイトミミズがブラウン運動ごとき姿を見かけた。
土壌に頭を突っ込んで有機物を食べ大量の糞を出す。
その大量の糞がいわゆる栄養豊富なトロトロ層をつくる。
イトミミズの大量発生は田圃に有機物が豊富であることの象徴。その循環がよい土壌をつくっていく。
毎年絶えることない営み。それもミクロの世界のはなしだ。
よく土作りって気軽に云ってるのを聞いて違和感を感じるな。人は土を作るなんてできないよ。
松下はよくこんな風に云う。
その言葉どおり、足元では小さな生き物たちが今もうごめいている。
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画像上:にこまる
画像中:おたまじゃくし
画像下:イトミミズ