いただき。
「ヒラヒラしている姿が、いいだろ〜」。
田植えが終わってようやくひと段落、松下は今、疲れた体を休めているところだ。そんな松下と早生から晩生品種までを、ひと通り見て回っている時に、目に付いた稲があった。
心地いい西風に吹かれ、ちょうど逆光でキラキラ光ってたせいもあるが、じつにいい姿。まだ体は小さいが、しっかり根が付き、生命力溢れている感じが、植物としてようやく自立した風に見えたのだ。
「いただきだよ。」
実験栽培から数えて5作目の「いただき」である。かつて、フワッとした柔らかい触感のお米を、静岡で栽培するのは難しいのではないかと思っていた時、松下が実験栽培した「いただき」を試食して、この触感が表現されていたことに驚いた。
その翌年から作付け面積を少しづつ増やしながら実験を重ね、21年産では、ようやく15俵(900キロ)ほど作った。仕上がりは上々。狙いどおりの触感が出ていたこともあり、なかなかお人気ぶりだった。その「いただき」の22年産が、今僕らの目の前でヒラヒラしているというわけだ。
「根が付いて自立するまでは、やっぱり心配だけど、ここまでくれば、まあ大丈夫。
今夜はゆっくりサッカーが見られるよ。」松下そう笑って言った。
2010年07月02日 [ 6443hit ]