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深夜のスクランブル。

 「明日の晩空いてない?
 
 昼、松下から電話が入る。いつもの様子とちょっと違う。電話の声は、かなりナーバス。10年以上付き合っているが、こんな歯切れの悪い喋りはこれで2回目
 前回は平成19年の9月。台風が過ぎても秋雨前線が居座ってくれたおかげで、米質に関わる出来事に見舞われた時だった。

 声のトーンで状況があまりよろしくないことはイメージできた。それがに関することだということも、察知していた。

 

じつは、もう一度作り直すんだけど・・・手伝ってくれないか?

 

 10年このかた、松下が僕に「手伝ってほしい・・・」なんてことを云ったのはこれが初めて。付き合えば付き合うほどに、松下の仕事っぷりは、繊細且つ緻密であることが判り、中途半端な手伝いは、返ってそのリズムを崩し邪魔になると思い、あえて作業そのものにコミットしないようにしていた。アンコメは「売ること」のみに専念していたというわけだ。

 

 店を19:30に閉め、車で藤枝へ向かう。20:30に到着。即、作業開始。
 今晩中に仕上げる仕事は、苗床の制作。育苗箱に山土に籾殻を混ぜた土を敷いていく作業。明日早朝から、その育苗箱に種を蒔くための下準備というわけだ。

 じつは、最初に作ったある早生品種の根の張りが著しく悪く、「ヘタをすると・・・」という状況になってしまったことから、再度作り直すということになったというわけ。
 一人でもできる仕事ではあるのだろうが、松下にしてみれば、これまで一度も失敗したことのない作業の調子が上手く行かず、万が一全滅?なんてことを一瞬脳裏にかすめたことで、ナーバスになったものと思う。

 

 「心配するなよ。たとえ全滅しても、松下と僕が損するだけのこと。ただそれだけのことさ・・・。その年のことは、すべてその年の作品と思えばいい・・・そうやって二千年来この島の人達はやってきただろ・・・」。

 

 僕はそう強がってみせた。本当にそう思っていたから。

 

 「そう言ってもらって気が楽になったな・・・」と松下。

 

 僕らは、攪拌機から出てき土をふるいにかけ、それを機械にセットしベットメイキングのように均一に敷いていく。全部で200枚分、2時間30分ですべて完成。その頃には、いつもの饒舌な松下に戻っていた。

 不休と睡眠不足が重なり、体は少々きつかったが、とってもいい深夜のスクランブルだった。

 

画像上:奥の黄色いジャケットはアンコメスタッフの山田。彼女にもいい経験だったに違いない。

画像下:同じ日に撒いたとは思えないほど色がよくない。根付きが悪い。このまま眺めているには不安がある。

2010年05月14日 [ 7565hit ]
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