通称ジャンボタニシ(スクミリンゴガイ)を初めて見たのは、ここへ通いはじめた2001年のこと。田んぼの中を悠然と移動する姿、大きさにもさることながら、その数の多さに絶句した。さらに驚いたのはタマゴの色。およそニッポンの水田風景に似つかわしくない毒々しいピンク色に外来生物さを強烈に感じたものだ。見た目は我慢するとしても、田植え直後の苗の食害にも悩まされた。それゆえに排除することに徹していた。数年前までは・・・。
状況が変わり始めたのは2013年。忘れもしない松下が書いた本「ロジカルの田んぼ」(日経プレミアムシリーズ)が発売された年、今までほぼ完璧に抑えられていた草(イネ以外の草:雑草)が、ところどころ、ほころびができたかのように草の繁殖を見かけるようになったのだ。当初は「本を出したばかりの松下にイネのカミサマが『調子にのるでないぞ~』と戒めてんだよ(笑)」なんて冗談を言っていたのだが、それ以来だんだんと抑草の効きが悪くなる傾向は止まることはなかった。
その原因に少なからずジャンボタニシの減少が関係していることは松下も承知していた。じっさいジャンボタニシの多い田んぼは草がほとんどなく、少ない田んぼは草が目立つようになっていたからだ。そもそも以前から田植えの際、ジャンボタニシの食害を想定し、疎植(株間を開けて植えること)とはいえ、やや厚めに田植えしていたくらいだから、彼らの動きは計算に入っていた。つまり松下の作戦は「肉を切らせて骨を断つ」的な手法で、ジャンボタニシとの絶妙な関係性のもとに草をコントロールしていたことになる。ところがここ数年、そのジャンボタニシが減少することで、抑草のバランスが崩れてしまったというわけだ。
排除しても排除しても減らなかったジャンボタニシが思いがけず減少に転じたことで草が増え始めた。この思いもよらない状況を打開すべく様々な実験を試しつつ、ジャンボタニシとどう共存するか?つまり松下の抑草技術のサポート役としてちょうどいい(都合のいい)働きをしてもらうためのグッドバランスを以前にも増して意識を向けることになっている。
きのうの敵は、きょうの友。
常に変わり続ける田んぼ環境に対応する柔軟さ、いやむしろそれを面白がるセンスは松下ならではと、いつも感心する。今回は田んぼの撮影だけにし松下には会わずだった。田んぼウオッチャーとして今年の田んぼの姿を見る限りでは、昨年よりも状況は良く見えた。排除されなくなったことでジャンボタニシも減少に歯止めがかかったようにも見える。そうこうしているうちにもうじき早生品種は出穂の時期だ。
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画像上:まさにジャンボ!田んぼ中を悠然と徘徊する。
画像中:ピンクなタマゴ。いかにも南米出身な感じ。ヒアリ以外に天敵がいないとか。
画像下:ここはカミアカリの田んぼ。ジャンボタニシとの共存関係がうまくいっている。