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書いておくよ。

 

書こうかどうか迷ったけれど書いておくよ。
自分のためでもあるけどね、
それに、これからの築かなきゃいけないちゃんとした市民社会のためにも、
少しだけ知ってもらいたい。そう思ったから。
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こんなことがあったんだ。

 

震災の翌日、12日(土)からお米の注文が急に増えはじめた。
敏感な人は動き始めたんだ。
その動きを見て、ボクはあの平成6年、17年前と同じことが起こると感じたんだ。
日曜の定休日を挟んで翌14日(月)からその動きは一層拍車がかかった。
テレビメディアがあの時と同じような報道をしたからだ。
スーパーの棚から商品が消えたあの映像が流されたんだ。

 

2回線ある店の電話は鳴りっぱなしになった。僕個人の携帯電話までも鳴っていた。
さほど通販に力を入れていないアンコメサイト経由の注文メールも半端なくたくさんだった。
その多くが関東方面からのものだった。
店頭も明らかにスーパーで手に入らなかったと思われるお客様の来店が切れ目なくなった。
その方々の中には20キロや30キロという単位で購入していった方までいた。
店内でお客様同士が口論するシーンまで見受けられた。
その間も東北へ緊急援助米として運ぶトン単位の納品も、となりの精米工場で急ぎ精米袋詰めしていた。
前回とはまったく違う。そう思った。
17年前は3週間そんな状態だったからそれと同じくらいこの嵐は続くことを覚悟した。

 

その最中、祖父が云っていたという口癖を思い出した。
「皆が慌て、自分が慌てた時が峠だよ・・・」
僕は17日(木)に在庫が心配になり少し慌てたんだ。案の定、そこが峠だった。
18日(金)は少し余波はあったけれどほぼ沈静した。
ネットなど素早い情報通信のせいなのかな?案外早く沈静化してくれて安堵したんだ。


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ボクはこう見る。

 

スーパーの棚からお米がなくなる。これは見かけの在庫がなくなったということ。
瞬間的に需要が供給を勝ったことで起きる現象なんだと思う。
冷静になって考えれば分かるよね。
いつも5キロ買う人がその3倍も5倍も買えば見かけ上はなくなるよね。供給が間に合わないからだ。

 

じゃあなぜ供給が間に合わなくなるのかな。
現代のビジネスではできるだけ在庫を持たないことが経営上の美徳とされているよね。
しかも賞味期限や消費期限など商品管理上、余計に在庫は持ちたくない。
お米の場合は精米年月日をできるだけ古くさせたくない。
だから注文も細かく出して少量で何度も配送することでそれらの問題を解決している。
コンビニエンスストアが一日に何度も配送している光景を見れば分かるよね。
厳密に管理し計算されて出された予想の数字以上は仕入れしないわけ。
それにあわせて製造工場の規模や配送車の台数、人員が無駄のないように配置されている。
ただしそれらは流通ネットワークが健全だからこそ機能する仕組みなんだよね。
だからそのネットワークのどこかでショートやイレギュラーが発生するととたんに機能しなくなるんだと思うわけ。

 

で、お米屋さん。例えばアンコメの場合はどうなってるかと説明してみるよ。
アンコメはいつでもある程度の在庫を持って商ってる。
通常の販売消費されるスピードでだいたい3ヶ月〜4ヶ月分。
低温倉庫と呼んでいる温度と湿度を管理している倉庫にお米をストックしているんだ。
獲れ秋に一年分買って倉庫に入れてしまうお米もあれば、
産地の倉庫に留め置いて倉庫に空きだできたら送ってもらうこともある。
お金を先に払って地元の倉庫に預かってもらっておくこともある。
まあお米の種類によって様々なんだけど基本的には自分の力で在庫を持つように努めている。

 

なぜそんなことしているかと云えば、お米は穀物であるから。
お米という穀物は美味しい米、そうでない米、品質や栽培方法、価格も加味すると様々なんだよ。
だから気に入ったお米があればそれをできる限り長い間販売したい。
なぜならそれが専門店であるし、アンコメのプライドだから。
お客様に、「アンコメさんのお米いつも美味しいね・・・」って云われる仕事がしたい。
だから現代のビジネス上あまり美徳とされないけれど在庫を持つことになる。
故に刺激的なプライスや派手な動きはあまり得意ではない。けれどいいモノが安定して準備できる。
これが米屋のしごとだと思っているんだ。

 

で、その米屋の仕事が役に立つことがある。まさにこういう時に。
つまり米屋は消費地の最前線にある小さなお米のダムなんだ。
流通ネットワークがショートした時にはある程度の期間持ちこたえられる。
ただしお客様がふつうのペースで買っていただくことが大前提。
アンコメの精米能力だって配送能力だって頑張って3倍くらいが限界。
店のスタッフや配送スタッフ、配送車だって急に3倍、5倍にはならないし、できない。
だからいつもと同じペースで買ってもらいたい。
もし心配だったらせいぜい1.5倍位にしてもらえば無用なパニックは起きないはずなんです。

 

どうですか?分かってくれたかな?
でもね。こんなことを書いているボクも、昨年新型インフルエンザが流行る前にマスクを買い込んだことがあるんだ。
だから余計に買いたくなる気持ちはよく分かる。
みんな家族や仲間を守りたい気持ちで動いただけだもんね。
でもそのひとりひとりの行動がある飽和点を越えた時に有らぬ事態を起してしまう。
だから厄介なんだよね。


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Bob Marley- Three Little Birds

2011年03月28日 [ 3814hit ]
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