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記憶の地平【6】

人前でお話しをする機会が、今月と来月そして年明けにある。お話しする内容はカミアカリをはじめ、これまでアンコメや僕自身が考えてきたアイデアやプラン、そして実際にやってきた活動のことなど。今それらを毎晩整理している最中なのだけど、整理していたら、その話しの源泉は過去の記憶にあることに気づいた。そこで、その整理がてら、このコンテンツで少し書いていこうと思う。ご迷惑かな?まあちょっとお付き合いくださいな。

 

記憶の地平【6】黒い塊

 

これは器の集合体です。
素材は木。その正体は外見からは分からないでしょ。
大きくて深い鉢状のモノ、大きくて浅い盆状のモノ
小さくて深い小鉢状のモノ、小さくて浅い小皿状モノ
すべてのパーツの外形は無彩色で無機質です。

 

完成直前に、となりで作業しているKが云った。

「それ重箱か?」

僕は即座にこう云った。「いや、そうじゃないよ。」

「でも、それに料理が盛られるんだろ?そういうのを重箱って云うんじゃないの・・・?」

 

重箱は、お正月のおせち料理のように、その重を華やかに広げ、その有り様を見て楽しむものでもあるだろ。
そこには蓋を開け、重を広げる前から、そのモノに対する期待感があるはずだし、それを用意する者にとってもそういう期待を持ってもらいたいと思うはずだ。
でもこれ(黒い塊)は、そういうモノじゃないんだよ。

 

例えばね。この塊が、客人達の居る空間に運ばれてくるとする。
客人達はまず、その黒い塊が何かな?と思うはずだ。
食べ物が入ってるという物体としての設えが全くないから。

そしてようやく一番上の蓋が外され、お料理が見える。
客人達は、どうやらこれはお弁当のようなモノだと悟る。
はてさて何が入っているのかな?という興味が湧く。
しかし、上から順に食べていかないと、次に何が現れるかが見えてこない。
黒い塊(ブラックボックス)を解読するためには、ひたすら食べるほかないというわけだよ。
解読できた時には、黒い塊そのものも分解され、同時に客人達のお腹も満腹という仕掛け。

 

これは「意地悪」が、テーマでね。
人間の中にある食欲という原始的な欲と、知的好奇心という大脳新皮質がいだく欲が、
意地悪を仕掛けることでシンクロするというわけ。
客人達は、個々の立場や役割、まあそういう後天的に出来上がった人の型から
ただそのに居るだけの等身大の素の人になっちゃうわけ。
面白いと思わない?

 

かなり乱暴ですが、僕はこの時、意地悪とは「高級なもてなし」だと考えていました。
ただし、これが通用するには亭主と客との関係に、ある熟度が求められるとも気づきました。
これ以降、僕のメンタリティの中には、常にこのエッセンスが底流にあるような気がしています。
高級なもてなしには、常にそのもてなしを享受する側にも、資質が必要なわけです。
もっともそれが自分に備わっているかと問われると、ちょっと困りますがね。
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プリンス似の友人がいる。学生時代たくさんの影響を受けた。今もたまに会って話している。
Prince and The Revolution - Raspberry Beret
 

2010年10月10日 [ 3776hit ]
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