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8月24日号 用意周到なプログラムの巻

 8月もお盆を過ぎたあたりからようやく夏らしくなってきた。静岡では8月のお盆休み中に連日大雨洪水警報が発令されるほどの悪天候だった。おかげで県内の主要ダムはすべて130%〜150%の満水状況というこの珍事を地元新聞が伝えている。いまさらここで述べるまでもないが今年の夏はまさしく冷夏である。ニュースならなだしもワイドショーネタにもなってお茶の間を騒がしている。「10年前の平成5年を上回る寒い夏で・・・・・」とレポーターが東北の田圃に出向き生産者にマイクを向ける。「この田圃ぜーんぶダメだな・・・・」なんて答えてくれるものだから東北地方全体がそんな風に見えてしまうあたりはテレビ魔力のスゴイところ。素直さに欠ける小生などはその手の映像見るたびに、「もしかしたらこの生産者の田圃は毎年ダメだったりして・・・・?」なんてかんぐったりする。たぶん多くの視聴者は初めて見るその状況を素直かつ誠実に受け入れ、さして比較検討もせず「へーそうなんだー」と信じ込む。信じ込む視聴者は自己意思の欠片もなく白布に染料が染みていくようにごく自然にその情報を受け入れていくのだろう。米のことに限らずテレビを観るたびにそんなことを考えしまうのである。

そんな思いを胸に10日ぶりに田圃を見に出掛けた。松下くんの田圃でも全体に1週間くらいの遅れが相変わらず追いつかないというのが現状だった。すでに出穂している品種の中にも一部不稔現象(実が入らない)が見られる。交配する一番重要な頃に長雨と低温で日照と温度が不足したためらしい。また別の品種は受粉時期に好天にめぐまれ遅れ気味ではあるけれど順調に生育しているものもあったりと品種ごとその状態はまちまちである。当店が松下くんに栽培依頼しているヒノヒカリは出穂したばかりで小さな穂が見え隠れしている状況だった。葉色も鮮やかで風にそよぐ風景はなかなかのものだった。ここ1〜2週間が好天が続いて無事受粉してくれることを祈るばかりだ。

松下くんの栽培する中で最晩生である山田錦(酒造用好適品種)の田圃に目を移すと面白い現象を見つけた。晩生であるためまだ出穂すらしていない田圃の中に1〜2本出穂して小さいながらも穂が垂れている個体があるのだ。「寒い夏にはああいうのが出るんだよな」と松下くん。「やつら(稲)も今年はヤバイかもしれないと思って早生の遺伝子を持っているごくわずかな個体が緊急出穂してるんだよ。」どんな状況になっても種の絶滅を防ごうとするマージンを残している稲の周到さを垣間見た気がした。「じゃあ、あれを選抜すれば早生の山田錦ができるね」と小生は提案した。松下くんはすでに数年前からそれらを選抜し何世代も実験栽培しているという。ところが収穫されたその早生遺伝子を持つ山田錦は人間様が求める山田錦の性質とは異なる米ができたそうなのである。稲にしてみれば人間様がお酒に加工したり、お茶碗にもられるなんてことを前提に進化してきたのではなく種の保存と拡大のために人間を利用してきただけなのであるから種の保存が危機にさらされている現状をかんがみれば、とにもかくにも次世代の遺伝子さえ残すことができれば人間のニーズなんて知ったこっちゃないというわけなのである。

人間と稲とのギブアンドテイクの契約とは、やはり好天あっての契約なのだ。稲側にとって危険な状況が想像された時は最悪の事態を招かぬように余計な情報は削除し最も重要な仕事を優先するように用意周到にプログラムされているのである。もっとも人間側も散々利用してきたにも関わらず、余ってるからもういらないと栽培することを放棄してしまう契約違反まがいのこともするのであるから、種の保存の危機を前にしてまで人間の都合を要求するのは大人げないと云うべきだろう。

いづれにしても、稲のしたたな戦略を垣間見る中、ひとつ疑問が沸いた。それは人間側にも稲のように自身が最悪の事態を招かぬように用意周到なプログラムが用意されているのであろうか?ということだ。ある意味では分業細分化された社会システムそのものがそれに相当するのであろう。しかしその社会を構成しているひとりひとりがテレビの情報に素直かつ誠実に染まっていく様をみると、ちょっと不安な気がするのは小生だけではないだろう。


●稲刈り体験会10月12日(日)に決定!
6月8日に田植え体験会にて田植えしたもち米の稲刈りを10月12日(日)午後1時から行います。田植え体験会にご参加いただいた方はもちろん松下農業にご興味ある方はぜひこの機会にご参加ください。当日は鎌による稲刈り、はざかけなど昔ながらの方法での収穫作業が体験できます。当日悪天候の場合は翌13日(月)を予備日とします。参加ご希望の方は電話、ファックス、Eメール等でご連絡ください。担当:長坂

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出穂

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不稔現象

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緊急出穂

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快晴

田圃の中のアートギャラリー
青々とした盛夏の田圃に風が渡る造形である。天候回復で一気に葉色が良くなった。澄んだ心地よい風が通り抜ける時にできる造形はあきることなく美しい。時間を忘れただ見入ってしまった。
青々とした盛夏の田圃に風が渡る造形である。天候回復で一気に葉色が良くなった。澄んだ心地よい風が通り抜ける時にできる造形はあきることなく美しい。時間を忘れただ見入ってしまった。
2003年01月27日 [ 3544hit ]
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