雑誌dancyu 2008年11月号である。立ち読みだけではダメですよ。必ず買いましょう。写真も美しいです。ライターのSさん、フォトグラファーのYさんありがとう。
雑誌dancyu 11月号「ご飯はもっと旨く炊けます!」に松下明弘がフューチャーされました。しかも7ページものボリュームで。私としては、うれしい気持ちと、ちょっと気恥ずかしい感じと、両方が入り混じった気分です。しかし松下がこれまでやってきた農。またこれからも続けていくであろう彼の農に対するスタンス。いや「生き方」をきちんとした視点から、彼自信でもなく私でもない第三者が書いてくれたことに、ホッとしているというのが正直なところです。
彼と出会って10年。出会った頃のことを思うと、米を取り巻く世界はものすごく変化しました。新世紀が始まる年、このプロジェクトをスタートさせた年の秋、ようやく店頭に松下×安米プロジェクト米をセットした日に、こう言われたことが今でも忘れられません。
「藤枝産?じゃあいらない・・・」
悔しさというより、逆にファイトが沸いてきて、いつの日か「どうしても藤枝の松下さんのお米が欲しい」と言わせるだけの米をカタチにすることを目標にしたのでした。
そうやって毎年毎年、微調整するごとに完成度が上がり、気がついてみたら多くのお客様から支持されるお米になっていきました。昨日あるお客様からこう言われました。
「松下さんのお米はまだ入りませんか?入ったらすぐ連絡してください」
入荷したわけでもなく、試食も済んでいないお米にも関わらず、もうすでに欲しい人が待っている。気がつけば、あの日から7年が経っていました。
それでも彼と彼の田圃の世界は、その探究への思いこそ深まったけれど、毎年繰り広げられる稲の生命活動そのものが佇む風景は何も変わっていません。大騒ぎしているのは外野だけ。そんな姿を横目に彼と稲たちは淡々と生き、また粛々と仕事を遂行しているだけなのかもしれません。
掲載紙が届いた日、タイミング良く松下も米を運んで来ました。「あさひの夢」。これまでの生長ぶりからその品質と味に大いに期待を寄せたお米です。
トラックから降ろし袋を開ける。そして面を見る。面の具合は毎年なじみの松下の米だった。はっきり言うとそんなに美人じゃない。ただし、米は喰ってみるまでその正体はわからない。出穂(穂が出ること)以降の生長ぶりから想像すると、どう考えても悪いわけがない。パーフェクトと言っても言い過ぎることはない。だって毎週田圃へ行って見る姿に惚れ惚れしていたからだ。
早速炊いてみた。
「やったぜ松下!」
涙が出るほどうれしい秋が、ついにやって来た。
松下スタイルの有機農業を代表する米として「山田錦」はあまりにも有名だが、それと同じくらいにこの「あさひの夢」も松下スタイルを象徴する品種として評価したい。大粒でやや硬め系、かつて明治時代にあった優良品種「旭」直系の中生品種。その幻を現代に甦らせたような風合い。奥から湧いてくる甘みと風味。白米で良し、玄米でも良し。けっして派手ではない、またそこが良い。20年産は栽培期間、ことに登熟期間(受粉〜収穫)の天候がほぼパーフェクト。こういう米こそがアンコメ米作りプロジェクトが目指す米の姿だと思ってもらいたい。ようやくこの日がやって来た。