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第34回カミアカリドリーム勉強会「カミアカリの味わいを言語化する」

 

第34回カミアカリドリーム勉強会を11月4日(月・祝)に開催した。秋に行う勉強会では、毎年その年に栽培されたすべてのカミアカリを一同に集め、生産者と共に試食をし参加者全員で、どんなカミアカリなのかをディスカッションするのが恒例行事となっている。今年は少し趣向を変えて、勉強会を立ち上げて間もない16年前にも行った「味わいの言語化」に再挑戦した。参加者は、生産者、米販売者、消費者など多彩な面々が46名集まった。講師には16年前にも同様の企画でお世話になったコーヒーの専門家、内田一也氏(創作珈琲工房くれあーる代表、カップオブエクセレンス国際審査員、他)を招き、参加者全員でカミアカリの味わいを言語化を試みた。

今回試食したのは、昨年と同じ7産地(静岡藤枝オリザファーム/茨城奥久慈大子町大久保農園/長野伊那長谷ザ・ライスファーム/静岡南伊豆アグリビジネスリーディング/千葉いすみつるかめ農園/福島猪苗代つちや農園/長野県佐久市がんも農場)研究開発中で参考出品したカミアカリ、静岡県農林技術研究所提供の黒巨大胚芽米、の計9種類。炊飯については、これまで以上にイコールコンディションを目指し、勉強会OBでカミアカリ炊飯フロー開発者である小谷浩一郎氏を招聘し、各米550グラム、加水量920グラムに統一し土鍋直火による炊き干し法を用いた。

今回の官能実験は、①炊飯中の香り、②外観、③香り、④味・風味、⑤食感、⑥イメージ、の6項目について言葉を探ってみた。じつは今年6月、実験的に行った同様のプログラム(カミアカリとそれ以外の玄米8種)では、炊飯中の香りとその変化が特徴的だったため、それについても項目に加えてみた。


①炊飯中の香り
「腐葉土」「青っぽさ」「カニ(魚介類)」「どくだみ」「カシューナッツ」などの過去にも時々出てくる言葉以外に、「甘醤油」「九州醤油を焦がした」「ビターなキャラメル」など、異なる言葉ながら同じ香りに反応していると思われる言葉があった。

②外観
「かりんとうの照り」「さなぎ」「ぷっくりお相撲さん」「イカ墨リゾット」「荒々しさ」など、9種の中で圧倒的なインパクトのあった黒巨大胚芽米には容易に言葉が出たが、それ以外にはなかなか表現が難しかった。ここでは色表現の必要性を今後の課題となった。

③香り
「日なた」「カラカラに乾いたタオル」「土ぼこり」「ほうじ茶」など過去にも時々出てくる言葉や、「納豆」「ミルク」「カシス」「赤ワイン」「小豆」「味噌蔵」「甘酒」などの発酵系の言葉、「チョコレートとイカ」「バナナチップ」「栗」「トウモロコシ」「ビターなココア」「草だんご」また「人肌」「コンクリート」「バンドエイド」などの食品由来ではないが、なるほどと感じる言葉、他に「DLのチキン」「柔らかいそよ風」のようなパーソナルな記憶とつながる言葉表現もあった。

④味・風味
「キャベツの芯の甘み」「茹でた根菜」「里芋」「さつまいもの皮」「クリーミーなきな粉」「遠くにえびせん」「清らかな磐梯山」などの共通性を感じる言葉の他に、「土~甘栗へ」など、味わいの変化についての言及もあった。

⑤食感
「ワイルド」「男気」などの強い主張を表現した言葉や「エビやゼリーのプリプリ感」「海ぶどう」「落とした風船」「逃亡者」などの言葉には「はじける」ような印象を巧みに表現した言葉も出てきた。

⑥イメージ
「古民家」「座布団」「赤ワイン」「甘酒」など物に例える言葉。「やさしい音が響き渡る」「風が岩を下る透明感」「リスの住む森」「雨の日の足音」「霜柱を踏みしめて歩く」「夏祭りの縁日」「草原」景色や経験に例える言葉。「インド人」「モンゴル人」「フランス人」「番長」「学級委員長」「生徒会長」「学校のマドンナ」「優等生おりこうさん」「奥さんにしたい人」「スナックのママ」「原始人」擬人化で表現する言葉。「青春」「青年」「海・潮風」「ポカリのCM」など爽やかさを表現する言葉など、自由で表現豊かな言葉がたくさん出てきた。

これからを踏まえて、今回の講師である内田氏のセッションを開始。内田氏によれば、こんなに多様でたくさんの言葉が出てくるとは思わなかったとのこと。国際的に見て一般的に日本人は、言葉表現が活発ではないとのこと。それに対して欧米人の表現の豊富さは、言葉や文化の違いがあるからこそ、そこを曖昧にせず、とにかく喋る(言葉を出す)ことでコミュニケーションを活発にすることが求められるらしく、多様で豊富な言葉表現があるのだと言う。

コーヒーの国際審査の基準は下記の8項目で官能するという。それぞれ最高8点の加点方式でそれらの合計点+36点で100点で審査される。

①香り、②後味、③酸の質、④質感、⑤甘味、⑥透明度、⑦バランス、⑧総合

例えば、②後味の評価では、飲んだ後の爽やかさ、澄んだ味であるか否か、味が濁るか否か。⑤甘みや⑥透明感の評価では、温度変化による甘みの変化、透明感の変化なども考慮されるという。冷めた時に透明感が増す場合、評価点が加算されるとのこと。とはいえ、農園や栽培品種、栽培方法ごと異なる味わいは、それぞれに評価する絶対評価的視点が前提として、8項目がそれぞれがどれくらい力が発揮されているのかをこのように評価するとのこと。つまり画一的な味わいを前提とした評価ではないところがポイントであるのだ。

じつはこれらを審査するテスターもまた審査対象であるとのこと。審査会が開かれる際、審査員は毎回キャリブレーションが行われ、その感覚の精度確認を行われることでフェアな審査であることを内外に示すことになるという。そういう意味では透明性の確保がこのような審査会運営上重要であるとの指摘もあった。

また、それら国際基準やルールメイクについての言及もあった。これこそ言葉や文化の異なる世界で共通の価値を紡いでいく上では、日本の米の将来を考えていく上で課題と言える。しかし例えば「柔道」が「JUDO」になったことに、一部の人の中にあるであろう「ある種の違和感」を忘れてはいけない気もした。ここは時間を掛けて議論を深めたいと感じた。

今回、16年の月日を経て再度挑戦したことで気づいたことがいくつかあった。それは技術の向上に伴い、それぞれのカミアカリの品質が向上したこと。かつて個性としてポジティブに捉えていたことは、品質のバラツキによるところが大きかったと考えられる点。反面、品質が向上したことによって、ある種の均質化によって、相対評価がしやすくなった点。また、それでもそれぞれのカミアカリに存在する地域や土地などの風土性、また栽培技術や癖を含む作り手のその人らしさ。それらを絶対評価できる点など。これまで核心はしつつも、ぼんやりしていた味わいの在り様と、その方向性の輪郭が少しだけ見えた。客観と主観、相対評価と絶対評価の痩せ尾根を行くような、ワクワクする面白さはより明確になった。このミッション、来年3月に行う勉強会のスピンアウト企画「ごみばことめがね」では「おいしさとは何かを考える」へ続く。

今回16年ぶりに講師をお願いした内田一也さん、遠路はるばる集まったくれた参加者の皆さん、運営に関わってくれた勉強会スタッフの面々、おつかれさま&ありがとうございました。
(レポート:カミアカリドリーム勉強会 長坂潔曉)

2024年12月02日 [ 181hit ]
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