これは、2022年長野県伊那市長谷中尾集落にある再生された古民家につくったご飯炊き専用竈「長谷の竈」の製作記です。
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昼飯はWakkaagriのスタッフFさんがパスタを作ってくれた。この農業法人で作られるお米でつくったパスタに、たっぷりのミートソース。オジサンたちの腹をみるみるうちに満たされていく。食後のコーヒーをいただく頃には眠気がやってきて、しばし無言の時間を過ごした。程なくして誰とはなしに長谷の竈へ近づいていく。なんとなく手元の石を拾い、これまたなんとなく蛇篭の中へ組み込む。それが連続していく。無言のまま30分が過ぎた頃、ようやく声を掛け合う。
「いい感じ・・・決まり始めたな・・・」
後に我々が、奇跡の30分と呼んだ昼食後の30分間は、いわゆるゾーンに入るような心地よい集中状態で、無言のまま集中し石の置き場が自然に決まっていく快感は何にも代えがたい時間だった。石ころ屋田中氏に至っては完成後「石が教えてくれる・・・」という名言を吐くほど、終盤のトピックスだった。2日目も朝から作業を開始。燃焼塔から煙突にかけての造作と、前日スッキリと決まらなかった箇所を作り直しをした。それでも11時前には無事完成。当初、小谷氏が計算した作業時間の半分の時間で完成したのだった。
さっそく試し炊きと行きたいところだが、まずはスイハニングする前に竈そのものを暖めなくてはならない。それは昔のエンジンと同じで、効率の良い燃焼のために、ひととおりの儀式が必要なのである。水を張った羽釜を、できたばかりの長谷の竈に乗せ、まずは少量の薪でちょろちょろと燃やす。急がずゆっくりと温度を上げていく。だんだんと大きな炎となる頃には竈が暖まり、炎はさらに勢いを増していく。ほどなく二次燃焼に伴うイイ音が鳴り始めた。
「ゴォ~~~~~~」
燃焼室の火の動きを見ると、燃える炎のほとんどが排気塔に向かっていた。「排気、少し絞りましょう」小谷氏が足元にあった小ぶりの蛇紋岩を排気ポートを半分近く塞ぐようにして置いた。すると、排気塔に直進していた炎が羽釜の底を巻くような動きに変化した。釜底全体からふつふつと湯が湧く姿を確認、このセッティングで試し炊きをすることになった。
火の入った「長谷の竈」は、まるで命が宿ったかのようだった。この竈がどんな性質か確かめながら羽釜に入れた一升五合をセオリーどおりに加熱していく。力業はできるだけ抑え、竈自身が沸点に導いていくように、薪は気持ち少なめ。熾火となった頃には釜の中は蒸し状態。最後に一掴みの藁燃やし・・・ぱっと熾る炎は、長谷の竈にはとても似合う。点火から30分後、皆の目の前にキラキラと輝く飯が現れた。その味わいは言わずもがなであった。(つづく)
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画像上:完成!命が宿った長谷の竈
画像中:蛇紋岩の組まれていく様子
画像下:試しスイハニング中の筆者