「そろそろ出穂している稲があるから見に来ないか」松下くんから連絡をもらい、約一ヶ月ぶりに松下くんの田圃へ出かけた。
アンコメ米作りプロジェクトで栽培されているヒノヒカリやカミアカリなど、松下くん栽培のすべて稲の生育動向はいつも気になっていた。どこに居ても、雨の具合、日照時間、日中の気温、夜間の気温、毎日変化するそれらすべてを体で感じ、藤枝の田圃はどうだろうかと思いを巡らすことはあっても、ここのところの拠所ない事情から、ここ一ヶ月以上まともに田圃に行ってなかった。
近頃は、なんだか農家かぶれになったものだと、自分自身驚いている。そんな折、早朝なら何とか出掛けられるチャンスができ、おなじみ飯稲記の著者、白鳥氏と早朝珍道中となったわけである。ただし今回は二輪車(自転車)×2の四輪ではなく、四輪車(自動車)×1となってしまった。それでも自転車の国、仏国製造による四輪車でのツーリングなので、どうかお許しくだされ。
田圃に着いてみると、早朝ならではの美しい光景を目にすることになった。それは「甘露」である。
早朝の稲にはたくさんの露がついています。しかし朝露だけがその露の正体ではないのです。稲の葉には水孔という小さな穴があって、夜の間にその穴から余分な水分を出すそうなのです。それが甘露の正体です。この露をなめてみると、かすかに甘く感じるのです。それが「甘露」と呼ばれる所以なのです。
この美しい光景を写真に収めたくて一眼レフのシャッターを切っている横で、白鳥氏が松下くんと何やら話しをしているのがBGMのように聞こえてきます。たしかこんな風なことだったかな。
「最近この田圃をはじめ、色んな田圃を見に行くようになったおかげで、田圃を見る意識が変わりましたよ・・・ことに良い稲、健全な稲とは、必ずしも誰しもがイメージするような山深く清浄な水の流れ出る所のみにあるのではなく、身近で足元ともいえるようなところにもあるのだと・・・」
それに対して松下くんはこんな答えをしていた。
「必ずしも条件が良くなくても、工夫をすれば稲はちゃんと答えてくれるからね・・・」
甘露美しき光景の中でなんとも美しい会話ではないか。「早起きは三文の得」と言うが、今日は三文以上の得をした気分だ。一ヶ月以上田圃通いしていなかった身には充分すぎる朝のひと時であった。