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5月5日号 若苗を愛でての巻

 日頃から稲栽培に興味のあるご近所のMさんが、今年は最初のから栽培の様子を見てみたいということから、そのMさんを連れ立ってゴールデンウィーク中日に松下くんの田圃へふらっと出かけてみた。母屋の裏手の作業場に行くと、案の定今年作付けする稲の苗作りの真っ只中だった。しかし園主松下くんの姿はそこにはなかった。

  作業場横では今年の松下くんとのプロジェクトで栽培する品種キヌヒカリの種籾が冷水を流し込んである大きなボリ製の樽の中に沈んでいた。そして樽の向こう側のきちんと整備された苗場には、すでに最初に田植えをする予定のプロジェクトの本命品種ヒノヒカリの苗床が入っている銀色のドームが4列完成していた。その銀色のドームの中はきっと芽吹いたばかりのヒノヒカリの若苗があるはずだ・・・。そんなことをMさんに話していたら松下くんがトラックに乗ってやって来た。

 「今日は朝から○×の田圃の整備をやってきたよ・・・」とトラックから降りるなり喋りだした松下くんの様子から、「この雰囲気ならば順調だな」と僕は内心そう感じた。今年で6年目、いつしかそんなことが分かるようになってしまった。
目の前にある樽の中に沈んでいる種籾の話しにはじまり、苗箱に種まきする方法と苗床の土質、苗場の整備方法・・・。各論に次ぐ各論、Mさんは興味深く聞き入っている。毎年思うことだけれど、よくもここまで細かい点についても手を抜かずやっているかと感心させられる。プロでありお金をいただく以上、当たり前ではあるけれどじつに繊細なのだ。かといって稲に対してはけっして過保護ではない。というより厳しすぎるくらいなのだ。有機栽培だからというより、なにより健康で強い稲に育てることこそ植物と対等に付き合う農業人の仕事だという自負が繊細な仕事ぶりに感じられるのだ。
いつか松下くんの仕事のディティールを書いてみようかと思うけれど今の僕にはとても書ける自信はない。雰囲気から発する松下くんの仕事の調子こそ少しは理解できても、彼の仕事のディティールを理解するにはまだまだ時間が掛かりそうだ。

 Mさんのリクエストに答えてヒノヒカリの苗が並ぶ銀色のドームの中を覗いてみた。想像していたとおり発芽して1週間ほど生長したヒノヒカリの若苗がそこにあった。その姿はまだかよわく、この銀色のドームによって作られる温度と湿度によって守られ、ようやく生命維持しているというのが見てとれる。もし銀色ドームが何かの拍子で飛ばされでもすれば、それは死を意味する。
僕はそんな危うい風景を目の前にして、あえて野暮なことを言ってみた。「この全部の稲が生長し秋に収穫した米が店に並ぶのですよ・・・」しばらく沈黙の後、Mさんはこう言った。「これが秋に実る稲の最初の姿なのか・・・感謝する気持ちが自然に湧いてくるよ・・・」。
そうなのだ。稲は米という穀物を生み出す人間にとって都合の良い植物である前に稲という独立した生命なのだ。生まれたばかりの苗を見るとMさん同様、誰でも自然にそこに生きている存在、「生命」を感じるようになる。生まれたばかりに苗とはそういう存在なのだ。

 


ヒノヒカリの若苗を見入るMさんと松下くん。
ヒノヒカリの若苗を見入るMさんと松下くん。
2006年01月28日 [ 3170hit ]
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