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松下高野8月27.28.29日号 人の田を見て我が田を思うの巻

 8月27.28.29日の3日間、アンコメ米作りプロジェクトメンバーの松下くん高野くんそして僕の3人で福島県会津地方山形置賜地方へ視察&勉強ツアーに出かけた。かねてから米どころといわれる産地の有機栽培や特別栽培など、その田圃や生産者と会って話しを聞いてみたいと思っていたからだ。それがついに実現したのだ。

 27日3:30>>まだ夜中のうちに静岡を出発。ラーメンで有名な会津の喜多方市を目指す。道中、東北自動車道沿いの埼玉、栃木、福島中通りの田圃の風景を眺め、生長具合などを全体の色合いや雰囲気からあれやこれやと序盤から稲談義に花が咲く。東北自動車道から磐越自動車道に入り会津盆地に入ったとたん口を揃えて「オー!」と叫んでしまった。けっして道中の田圃の雰囲気が悪かったわけではないが会津盆地のその雰囲気は「稲のメッカ」に来たという実感を僕らに与えたのだった。

 10:30>>喜多方市の北部、熱塩加納村のJAS有機生産者菅井さんのお宅に伺った。自己紹介をひと通り済ますと僕らを試すかのように間髪入れず「除草体系はどうしているか?」菅井さんから先制パンチの質問を投げかけられた。そこで松下くんはまず静岡の気候風土、田圃の特性などを説明した上でいつもどおりこう云ってジャブで応戦した。「除草するのではなく、雑草の一つ一つの特性を調べその対策を一つ一つ積み重ねることで、草の生えにくい田圃を作っています・・・」。菅井さんらに認めていただいたのか同席の皆が笑顔になった。

 菅井さんの話しを聞いてこの土地の気候風土を知り、除草についてのいきなり質問の理由がわかった。なんと熱塩加納村の冬の積雪は3メートルにも及ぶという、その雪がなくなるのが3月末、田植えまでの作業時間も短い上に耐寒性の雑草が多いことや表土の深さなども藤枝とは違い、これまで松下くんが大井川の扇状地の田圃で培ってきた「草の生えない田圃作り」はここではほとんど通用しないことがわかった。そこで菅井さんたちは紙マルチという田圃全面に紙を敷き初期の雑草を防ぐ方法を用いているという。除草一つでさえも環境の違いによってこれだけ違うとは僕らが想像していた以上のものだった。

 「田圃を見に行きましょう」。自宅から少し離れたところにある周辺を落葉紅葉樹林に囲まれたすばらしい環境の菅井さんの田圃へ見に行った。コシヒカリと夢ごごちを栽培している田圃に着くなり、「いいねー!」僕らは声をそろえて叫んでしまった。僕らが今まで見た稲の姿としては昨年、静岡県の標高800mの田河内という山間集落の田圃で出会った小ぶりながら見事な姿の稲に勝る、たぶん最上級といって申し分ない稲の姿がそこにあった。松下くんの田圃同様の反収7俵、疎植(株と株の間がたっぷりある植え方)であるが田圃全体がもう一段階明るく一株一株が燐としたその姿はまさに芸術品。僕らの目指すべき稲の姿をついに見つけたという印象を受けた。日頃しゃべりの多い松下くんでさえ、この時だけは黙って眺めていたのが印象的だった。帰り際、松下くんが僕にこう云った。「おまえが買わないなら俺が買っておまえに売ってやる!」それくらい惚れ惚れする稲であった。(このお米は今秋から販売を予定しています。)

 28日10:00>>今年優良米穀小売店全国コンクールの受賞式以来お付き合いをしている会津若松の石井商店の石井さんのご案内で会津の中でも一目を置かれる地域といわれる慶徳地区で特別栽培米(減農薬減化学肥料栽培米)を栽培している生産者Kさんの田圃へ行った。慶徳地区のお米は当店でも毎年販売している人気商品、その秘密を知りたくて「慶徳は会津の中でもなぜ特別な扱いなのですか?」と質問してみた。すると一言、Kさんは「この土です」と足元の土を手に取って見せてくれた。「この土質は魚沼の山古志と同じ山塊の土質で会津にはこのあたりの山際の崩壊した場所にしかなく慶徳とはそういう場所なんです」。栽培技術が進歩した現在でもその基盤となる土壌の微妙な違いが同じ会津というコップの中のような世界でも米の食味に微妙な違いを生んでいるのだ。だからこそ、栽培される米はその土地々のオリジナリティがあるのだ。前日訪問した熱塩加納村には熱塩加納村の慶徳には慶徳の、そして藤枝には藤枝の、菊川には菊川のオリジナリティがそこに存在するのだろう。

 29日>>僕らはあこがれの地、米沢にいた。上杉鷹山ファンの松下くんと僕にとってこの町は特別なところだ。昨晩この地に入る時には「ついに来たか」とちょっと興奮したのだった。そんな気分のものだから米沢の隣町、飯豊町の取引先の集荷センターに約束の時間の10:00前に到着してしまった。さっそく担当者のSさんがこの飯豊町の特徴を説明してくれた。「この飯豊の田圃は珪酸分が豊富なことと、町内を流れる最上川の最上流部である白川にはマグネシウム分も豊富なんです・・・」と僕らにとっては夢のようなことを説明してくれた。松下くんや高野くんが用水として利用している大井川水系はある意味できれいな水で稲栽培にとって有用な何かが特筆的に多く含まれているわけでない。その説明を聞いたとたん僕らは顔を見合わせて「うらやましー」と声が出た。足りない事がオリジナリティなのだとプラス指向で考えてきた僕らにとって、オリジナリティを生み出す素材が足元の土質や水に豊富にあるというのは、やはり東北が米どころという所以なのだろう。

 帰り際、Sさんが「米沢駅の駅前でどまんなか弁当を買ってみてください」と僕らに云った。「近年作付面積が減ってはいますが私個人としてどまんなかが増えることを望んでいるんです・・・」はえぬきとコシヒカリ一辺倒になってしまった山形の現状に少々疑問に感じていた僕にとってはこの言葉は力強く感じた。

 13:00>>米沢市内、米沢城址上杉神社と上杉鷹山公を祀る松岬神社をついに参拝。講釈師松下明弘の上杉鷹山物語「板谷峠の段」を聞きながら「どまんなか弁当」を食べる。たしかに舌触りなめらかで具の米沢牛のそぼろにも負けない旨みを持ったしっかりとした美味しいご飯だった。じつを云うと昨晩大峠から米沢に入ってからここへ至るまでの間、街の風情や田圃の様子に少し違和感を感じていた。その違和感とはきっと僕自身が勝手にイメージしていた米沢像とのギャップに違いない。しかし、このどまんなか弁当のご飯だけは僕のイメージのままだった。米沢の人々にとって鷹山信仰とはある意味において重いことなのかもしれない。しかしそんな歴史や文化があることは、田圃の土質や河川の水質と同じくらいこの土地のオリジナリティを象徴する羨ましいくらいすばらしい要素だ。こんな旨い「どまんなか」がある国を羨ましく思うのは、けっして駿河の国から来た僕らだけではないはずである。Sさん同様どまんなかの作付けが増えることを祈念し15:30あの板谷峠(正確には栗子トンネル)を越え岐路に着く。

 20:00>>東京南青山「一汁三菜」へ寄って晩飯をいただく。アンコメ米作りプロジェクト「松下×安米ヒノヒカリ」が毎日食べられる全国で唯一のお店。以前6月20日号でご紹介した僕が米アドバイザーをさせていただいている定食屋である。土地柄か個性的で舌に敏感なお客様が多く僕自身も強烈な手ごたえを感じている店だ。僕はこの緊張感のある雰囲気が大好きで松下くんと高野くんにも一度この空気を感じてもらいたいと思っていたのだ。そんなこの店のご常連のお客様から「松下さんいつも美味しくいただいてます新米はもうすぐですか?」とお声を掛けられ珍しく緊張しながら新米の生育状況を説明する松下くんであった。

 こうして充実の3日間は終わった。他人の田圃を見ることで自らの田圃の良いところと悪いところ、そして何よりも松下くん高野くんそれぞれの田圃にしかないオリジナリティも明確になったような気がする。「人の田を見て我が田を思う」そんな旅でした。


喜多方


熱塩加納村


夢ごごち


芸術品


慶徳の土


飯豊町


飯豊町


松下くん

今回の時間はこちら
熱塩加納村の田圃、JAS有機認定生産者どうし話題は尽きない。 手前から菅井さん、松下くん、玄さん、高野くん。
熱塩加納村の田圃、JAS有機認定生産者どうし話題は尽きない。 手前から菅井さん、松下くん、玄さん、高野くん。
2005年01月27日 [ 3550hit ]
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