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松下6月26日号 カラ梅雨でも豊年エビは大繁殖の巻

 雨が降らない。大井川から農業用水を取水している藤枝の松下くんの田圃も、ついに一日おきの給水となってしまった。「まあ、ひび割れするほどの渇水じゃないからまだいいけど、このままこの調子だと・・・」と松下くん。稲の初期生長の大事な時にこの取水制限には、さすがの松下くんも手の施しようがない。天候だけは人間の技を持ってしてもどうしようもないことなど解っているつもりでも、梅雨だというのに、ここまで降らないのは彼が稲作を始めてからも記憶がないと云う。近年、地球温暖化による気象変動を指摘する報道を多く聞くようになった。以前の僕はそんな報道を聞くたびに、「地球の歴史の時間軸で考えればこの程度の変動など許容範囲じゃないの?」なんて生意気ぶったことを思ったものだが、こうして自分ごととして考えるようにとなった田圃の状況を目の前にすると、「この程度」でも充分に大事件と思えるようになった。灌漑施設が不十分だった時代、雨乞いをするしかない先人達の思いがほんの少しだけ解ったような気がした。

 お客様で昆虫や水棲生物が三度の飯より大好きだというNさんの小学生兄弟が、半年前からこの時期の田圃を見学したいとリクエストしていた日がついにやって来た。しかし事前に水不足と聞いていたので、お目当ての豊年エビなどの水棲昆虫は例年よりも少ないかもしれないと覚悟して行ったが、そんな心配は無用なほど例年よりも大量の「豊年エビ」を観察することができた。

 「豊年エビ」は生きた化石と呼ばれ、松下くんの田圃では、田植え後数週間すると土の中の卵からかえり、2〜3週間というわずかな間を田圃の水の中で過ごし、卵を産みその短い一生を終える生物。豊年エビがいるということは、裏返せばエサとなる微生物が豊富にいるという証明で、それら微生物によって田圃の有機物が一気に分解され、その分解された栄養素が稲の生長源となるのです。豊年エビがいるということは=栄養分たっぷりの田圃=豊年満作。ということから「豊年エビ」という名で呼ばれているそうです。

 じつは、農家の長男である松下くんでも、この「豊年エビ」を見たのは大人になってからで、しかも有機無農薬栽培で米作りをはじめて3年目のことでした。発生当初この生物が何なのか解らず近所の長老に聞いたところ、「こりゃ豊年エビじゃぞ、わしが子供の頃にゃ、たんといたけーが!」と驚いたそうです。考えてみれば、農薬の大量使用が行なわれた昭和30年代後半生まれの松下くんが知らないのも、あたり前のこと。農薬を使っていた時代の松下家の田圃では約30〜40年もの間、豊年エビの卵たちは、じっと息をひそめて孵化する時期を待っていたということになる。農薬使用量は減った現在でもこうやって大量に見られるのは松下くんの田圃くらいで、畔一つ越えた農薬、化学肥料使用の田圃では一匹も見られない。生命とは生きるための最大限の努力を常に選択しているということがこんなことからも垣間見れるのだ。

 こうして水は少なくとも豊年満作の証は確認できた。あとは稲の生命力を信じるのみである。この文章を書き始めた7月1日(金)ようやく雨が降り始めた。今週末から週明けにかけてまとまった雨が降ると天気予報は伝えている。僕らのにわか雨乞いが少しは効いたようだ。


兄弟


渇水


豊年エビ


豊年エビたち

今回の時間はこちら
節句から53日目、梅雨空ながら降雨なし、ただひたすら田圃を見つめるのみ。
節句から53日目、梅雨空ながら降雨なし、ただひたすら田圃を見つめるのみ。
2005年01月27日 [ 3071hit ]
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