早朝携帯へ松下からメッセージ・・・
― 今日と明日、南伊豆の中村くんが代掻き田植えの実習に来ます。時間があればおいでよ。
この日は午前中から予定たっぷりの日程だったが、昼に藤枝までクルマ飛ばした。
久々に見る中村くんの笑顔、相変わらずの様子、第一声は・・・
― すっげーっす!松下さんの代掻き・・・
何ががどう凄いのかの説明はないのだが、
びっくりしているその表情から彼が思う何倍も緻密なんだろうことが察せられた。
緻密といえば、毎年この時期になると思うことがある。
よく有機農業の興味や関心のある方から「田植え体験とかやらないの?」と聞かれることがある
思えば、このプロジェクトを始めた頃は、松下さんに専用圃場を設けてもらい、そんなイベントをやったこともあった。
しかしある時から見学以外の田んぼ訪問はやめにした。
その理由は田んぼは松下の仕事場であり、また彼の作品そのものであることに気付いたからだ。
毎年、田植えをするはるか以前から季節の移ろいにあわせて少しずつ整備をしていく。
そうして仕上がっていく田んぼは、土木的にも土壌成分的にも一般の人が想像する以上に繊細で緻密。
しかもそれら作業はすべて一人でできるように、これまた緻密に設計されるのだ。
そのことに気付いてしまったら、おいそれと田んぼに入ることを躊躇するようになった。
田んぼは彼の作品。
だから畦傍で稲たちを見てもらったり、声をかけてもらうのは本当にうれしい。
しかし田んぼの作業となると話しはすこし違う。
それは自分自身の仕事に置き換えれば想像できるかと思う。
一週間後、また中村くんに会ったので、2日間の経験をたずねてみた。
すると彼はこう答えた。
― 松下さんの田んぼって四角くないんですね、あれでよくあそこまで・・・
たしかに松下の田んぼはすべて条件が良いところばかりではない。
場所によってはギザギザの不定形の田んぼもある。
よくあの場所であそこまで緻密に仕立てられるかが中村くんには超人的に見えたようだ。
しかし逆説的にいうと、だからこそ緻密に仕立てることに気付いたのだと思う。
不定形な場所は誰が作業しても上手く仕立てられず、やたらと雑草が繁殖するなどコントロールが難しかったに違いない。
しかしそのことで雑草が生えるメカニズムを知ることができたり、稲作の中にあるすべての「なぜ?」について
その理由を探求することができたのではないかと思う。
不定形に限らず、若い時分、新たに借りることができる田んぼのほとんどは条件の良くないところばかりだった。
そのことが今の松下の繊細で緻密な農業を作る糧になってきたと感じている。
今回は評論家めいた偉そうな文章になってしまった^^;
中村くん、今年も頑張ってな!
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画像上:世話の焼けるかわいい弟子、田植えの終わった「あさひの夢」の田んぼにて
画像中:中村くんが持参した苗の講評
画像下:目線の先にある白い産毛みたいに見える葉耳(ようじ)、イネにあってヒエにないもの。