1日目 仕事っぷり バケット作りを密着取材。

2010/7/23 17:48 投稿者:  ankome

 今年で4年目、第7回目となったカミアカリドリーム勉強会、構想から実現まで約半年、その途上では勉強会の有り方や方向性についてコアメンバーを中心に、たくさんの議論がなされ日を追うごとにそれらが明確になっていきました。それらを気付かせてくれたのは、これまでカミアカリドリーム勉強会に関わっていただいた多くの方々や、スタッフのみんな。そしてこの3日間、仕事っぷり生きっぷりを、まじかで見せていただいた今回のゲスト講師、株式会社ドンク仁瓶利夫さんに感謝致します。

_

 

 勉強会本番は7月18日(日)ですが、今回のゲスト講師、株式会社ドンクのパン職人、仁瓶利夫さんは前日から静岡入り。ドンク静岡店のある松坂屋の工房を借りて当日に試食するバゲットの準備に入った。勉強会のメンバー、長坂、石垣、小谷の3名はその作業の様子をまじかで見せていただいた。

 

 ばんじゅうに入ったパン生地を大きな台に広げ、そこから適量切り取り、最初にかるく叩く。

 「お尻を軽く叩くように、こんな風にね・・・」。
 一次醗酵した生地のそこここに気泡が含まれている。仁瓶さんが手首のスナップを利かせてペシッとはたくようにすると、大きな気泡からガスが抜ける。
 「生地をこうして押すとつぶれてしまうけど、こんな風にはたくと、ほら、もとに戻るでしょ・・・」。

 つぶすためではなく、醗酵した生地の力を生かすためにたたくのだ。
 そして両手をやわらかく使って生地を細長く延ばしつつ、外から内に向かって成形していく。

 「張るように・・・張るように・・・」
 美しい女性を陶器のような肌とはよく言うが、まさにつるりとして張りがある、焼く前の陶器のような美しい姿となった。それをバゲット用に波型にループした綿布に乗せる。その状態で焙炉(ホイロ)に入れ、2次醗酵の工程となる。

 ほどなく焙炉から出すと、バゲット特有のクープ(切れ目)をナイフで入れた後、オーブンに入れる。あとは焼きあがるのを待つのみ。

 

 「それじゃあ、少し触ってみるかい?」と云って、我々も生地を触らせてもらった。その感触は、見た目から想像するよりもはるかに柔らかく軽い、さらにきめが細い。それを他の何かに形容できるものが見つからないほどに、初めて感じる手触りであった。
 さらに、仁瓶さんの動きを見よう見まねでバゲット風の姿にするも、バゲットどころか粘土細工以下の酷いものが出来上がってしまった。先ほどみた、いとも簡単に生地を成形していくパン職人の姿は、やはりただものではなかった。当たり前のことだが、あまりにも簡単に作業を行う仁瓶さん、そしてスタッフの人たちをみて、これなら自分たちもできそうだ!とあらぬ夢想をしていたのだ。
 「これをいきなりできる人間なんかいないよ。心配しなくていいよ・・・。ただバゲットになる生地がどんなものか、触ってみないと分からないでしょ。」と、仁瓶さんは笑って言った。

 

 そんな時間を過ごしていると、香ばしい香りと共に、僕らの前に焼きあがったバゲットが運ばれてきた。早速、仁瓶さん自らナイフを入れる。
 「パリバリッ!パリバリッ!」とクラスト(皮)の奏でる小気味いいサウンドが食欲をそそり、バゲットが良いコンディションであることを予感させてくれる。
 「いい内装だな・・・」 (内装とはバゲットの中身のことをいい、中に気泡状の空間があることが重要とされる)
 テスト用に焼いたバゲットは数種。一次醗酵の時間、酵母の種類、原料の小麦粉、ほんの僅か添加物を含ませたものなど、ぱっと見は似ていても、実のところは全く異なる内装、香り、触感、味、風味を持ったバゲットである。

 

 「ここんとこパンをちゃんと作ってなくてね、じつは最近も失敗したばかりなんだよ・・・」と謙遜する仁瓶さん。しかしその一連動きは、現役を離れ後進の育成が仕事の中心になったとはいえ、生地をさばく手の動き、工房内を動くフットワーク、それらはサポートで入っていただいた現役スタッフの方と何ら変わりない、アクティブそのものだった。
 そんな姿を見ていたら、自然にこんな言葉が出た。「大丈夫です。できたものをそのまま受け入れます。それがカミアカリドリームのスタイルですから・・・それに仁瓶さんの満足されるレンジより、我々の満足のレンジは、たぶん遥かに広いように思いますから」。

 

 歴史気的に見れば、パン職人は肉体労働そのものだったわけで、仁瓶さん自身もそのことに誇りを持ってこう表現している。
 「士農工商パン職人」。
 そのパン職人の口から出てくる知的好奇心溢れる言葉の数々に、仁瓶さんがいかにバゲットを愛し、またそれを生んだフランスの文化に敬意を表しているかを実感したのだった。そんな仕事っぷりに触れた我々は、誰とはなしにこう感じた。
 「こんな風に仕事をしたい・・・」。
 自分の仕事に仁瓶さんの姿を投影し、仁瓶さんのように淡々と、かつ知的に、そしてアクティブに仕事がしたいと。背筋が伸びる思いで松坂屋の工房を後にした。

 

今回の勉強会の準備に多大なるご協力いただいた株式会社ドンク静岡松坂屋店の皆様、株式会社ドンク黒嶋さん、本当にありがとうございました。

_

 

第7回カミアカリドリーム勉強会レポート今後の更新予定

2日目 話しっぷり 勉強会本番
3日目 走りっぷり カミアカリの田圃へツーリング
 

画像上:パン職人仁瓶利夫さん。

画像中:「張るように・・・張るように・・・」

画像下:素晴らしい内装です。