第01回〜第11回

2005/1/29 22:15 投稿者:  ankome
 

第11回 僕が思う美味しいゴハンシリーズII 「分づき米の美味しさ」

image 2006年5月から6月の2ヶ月間、FM静岡K−MIXの9:30からオンエアのキャラメルポケット「県人・賢人・ご意見人」(9:42〜9:48頃)で毎週月曜日にアンコメ店主が生出演した時にお話したこと、話し足りなかったことなどを毎回アップする予定です。

「お米を洗ったらお水に2時間浸ける」「2時間つけたら水を替えて炊飯!」
お米の美味しさ、ことに白飯ならではの澄んだ美味しさを100%発揮させるには、このひと手間、ふた手間がとっても大事なのです。どんなに良質なお米を買っても、いや良質なお米ほどその持ち味を100%発揮させるためには、ぜひやってほしい手間なのです。

 お米を水に浸すことは、炊飯中に米粒の中心まで熱を伝えるためです。要するに水は熱を伝える媒体なのです。その水が米の中心に到達するためには、ある一定の時間が必要なのです。これは水温や米質によってかなり時間に幅がありますが、どんな季節でもどんな米質でも間違いのない時間が約2時間なのです。気温の高い夏には30分程度で良い米もありますが、じつは米粒の中ではたんに水が浸透していくだけでなく、水に触れることによって米粒の中の2種類のデンプン分解酵素(αアミラーゼ、βアミラーゼ)が活動を始めるのです。この酵素の活動によってお米がやわらかくなることはもちろん、そのお米が持っている甘みや旨みを引き出す作業をしてくれているのです。とくに品質の良いお米ほどその活性は活発だと言われています。

 さて、こんなに良いことばかりのアミラーゼくんにも一つだけ問題があります。それはアミラーゼくんも活動すれば老廃物が出るのです。人間みたいですね。老廃物という表現はあまり適切ではありませんが、要するに2時間浸漬した水(浸漬水)の中には不純物が排出しています。また活性エネルギーは熱交換されていますから若干の水温上昇があります。そこでは細菌も繁殖しやすいのです。そこで水を捨てる作業(水切り)してほしいのです。これが「水を替えて炊飯!」の意味なのです。ただし、水切りは長くても5分程度まで、それ以上そのままにしておくと、お米がひび割れてしまいます。そうなったお米を炊くと「べちゃべちゃ」になってしまい、せっかくのアミラーゼくんの努力も台無しになってしまうのです。

 ここまで書いて「こんなこと毎日できないよ〜」という声が聞こえてきます。そうですよね。こんなこと毎日できるわけありません。じつはアンコメ店主だって毎日やってるわけではありません。そこで提案です。週に一度、いや月に一度、暇な時に挑戦してみませんか?要するにたまにで良いのです。今、あなたが食べているお米の本当の味とは?あなたが使っている炊飯器のポテンシャルで炊ける最高のご飯とはどんなものなのか?を知ることが大事なのです。知っていてあえてサボる人生と、知らないままの人生、どちらの人生が楽しいか?あなたはどっち?

 

第10回 僕が思う美味しいゴハンシリーズI 「ベーシックとオプション」

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 美味しさは十人十色。人それぞれであることは云うまでもない。しかし僕個人として独断と偏見で感動し美味しいと感じることのできる米の「美味しさ標準」というものをあらためて考えてみた。これから数回にわたってシリーズで書いてみようと思う。今回は「ベーシックとオプション」2段階で美味しさを判断し米選びの基本としている考え方をご紹介します。

 日頃、全国各地からやって来るお米を日々試食して何を売ろうかと判断するのに僕はこの「ベーシックとオプション」という2段階で判断しています。売るか?売らないか?良いか?ダメか?好きか?嫌いか?結果的には二つに一つの判断なのだが、そこの至るプロセスがこの「ベーシックとオプション」なのだ。

  • ベーシックとは・・・

    「甘み、歯応え、滑らかさ、香り、粘り」の事です。この5要素を持ち合わせることがベーシックと云える条件です。しかし持ち合わせているだけではいけません。5要素が絶妙なバランスを持っていることが重要だと思っています。例えば甘みが少ないお米でも、それがプラスに感じられるお米が存在します。これらはバランスの良さが魅力になっている一例だと考えます。すべての要素が満点だとしてもバッドバランスではいけません。目指すところはグッドバランスなのです。そんな米に出会った時には僕は開口一番「この米キレてるねー!」と云うわけです。

  • オプションとは・・・

    すばり「風味風合い」である。ベーシック5要素からなるグッドバランスから作り出されるその米独自の風味風合い、もっと云えばオリジナリティである。食べ物とはそれを食べた時にそのモノが育った場所や雰囲気が想像できることが大事だと思います。風味や風合いとはそういったロジックでは簡単に説明できないような第六感的要素です。それを僕はオプションと呼んでいます。ちなみにそんなイマジネーションをかき立ててくれるようなお米は年に数回しか出会えません。

2005年8月18日

 

第9回 お米が好きななのは、人間だけじゃないんです。

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 蒸し暑い季節がやって来た。この季節、田圃では様々な生き物たちが一年のうちで最も活発に活動を見せる時期である。ことにアンコメ米作りプロジェクトの無農薬有機栽培で米作りが行われている田圃では、その活動が一般の田圃に比べ多様性に富んでいて見る者に感動を与えてくれる。微生物から水棲昆虫、爬虫類や鳥類に至る多様な食物連鎖を見るに度に人間が作った田圃という環境が、人間の食料確保のためだけでないことを実感させてくれる。そんな同じ頃、じつはお米に関係する他の場所でも生き物たちが活発に活動を見せる場所がある。その場所は米屋の倉庫や家庭の米びつの中である。そこで見つかる?かもしれない!虫たちをご紹介しましょう。

  1. ノシメマダラメイガ
    体長1センチ前後の白色の幼虫を見るケースが多くたくさんの糸を吐きながら、食べくずを綴り合わせて白いマユを作ります。米袋さえも食い破って浸入します。家の中で小ぶりな蛾が飛んでいたら米びつを要チェック!
  2. コクゾウ虫/ココクゾウ虫
    米につく代表的な虫です。象のような鼻をもつことからこの名前だとか。生命力が強く約7ヶ月も生息します。成虫は体長3ミリの黒色なのですぐ見つかります。ココクゾウ虫はややスリムで色は褐色です。
  3. コナナガシンクイ虫
    最近大発生している虫です。赤褐色の成虫で体長2〜3ミリの細長い円筒形で硬いボディを持ち空中も舞います。短期間で膨大な数に増え、手で叩いてもなかなか死なないタフな虫です。

 じつは、田圃の生き物が活動している時は米屋の倉庫や家の米びつの中でも生き物が活動する季節なんです。我々人間は田圃の中の生き物には感動するのに米びつに発生する生き物は害虫だとして駆除をする。じつはこれ、少し変なことだと思うのです。本来虫には益虫や害虫の区別はなく人間の都合で仮にそう呼んでいるだけのはなし。我々人間は田圃の生態系は守ろうと農薬を使わないことを求めるいっぽうで、米びつの中の生態系は許せない。なんともエゴイスティックな生き物なのです。こんなことを書いている僕でも米につく虫は気持ち悪い。だから害虫だと思っている。しかし有機無農薬米や減農薬米を扱う以上は薬を使いような駆除はしない。倉庫の温度管理や精米工場内をこまめに掃除するなど、できるだけ発生しないようにするだけだ。それでも虫は発生する。僕ら人間同様に彼らもお米が好きで。生きようと必死なのだ。この季節、生命豊かな田圃を見、米につく虫たちを見る時こんなふうに考えるのである。

  • お米につく虫の発生、侵入を防ぐ保存方法
  1. お米をフタのしっかり閉まる密閉できる容器に入れる。水などが入っていたペットボトルがオススメです。
  2. 密閉容器に入れた状態で冷蔵庫に入れれば味も落ちず、カビの発生も防ぐことができる最強の保存方法です。

2005年7月4日

 

第8回 僕にもできたハイブリット玄米食のススメ。

image 玄米とは収穫された稲から実の部分(籾)を脱穀したものから籾摺り(籾を取り去る)をしたお米の状態をこう呼びます。そんな玄米はビタミン、ミネラル、食物繊維、また血流を良くするリノール酸などの脂質も含んでいるまさにスーパーフード。そんな玄米を毎日食べたいと思っている人は多いのでは?米屋でありながら白米のテイスティングがあるといういい訳で玄米食がなかなか続かない三日坊主の僕が苦肉に末に編み出したハイブリット玄米食(僕が勝手にそう呼んでいるだけ)をご提案します!

 まず炊飯は簡単に玄米を炊くことができる玄米モード付IH式電気炊飯器(僕はM社製を愛用しています)がゼッタイオススメ。もちろん圧力鍋や炊飯土鍋、カムカム鍋でも美味しく炊くことができますが僕のような手抜き派には玄米モード付IH式電気炊飯器が強い味方なんです。そいつで週1回5〜6合炊き、アツアツ炊き立て玄米をラップか密閉容器に小分けし湯気(水分)が逃げないように急いで密閉、あら熱をとってから冷凍保存します。食べる時はレンジでチンして先に盛っておいた白米ご飯の横にポンと置いて「いただきまーす。」こうすれば玄米を食べたくない家族やパートナーとも平和共存できます。しかも食べたい時にいつでも食べられ、毎日炊く手間も省けます。白米の美味しさと玄米の美味しさ、両方のいいとこどりが長く付き合える秘訣です。玄米食というと、ついつい真面目に「毎日三食食べないといかん!」なんて思い込んでしまうケースが多いようです。しかしこれでは長続きしません。簡単かつ気軽に食べられる環境をつくることが大事です。この環境づくりこそ僕がオススメする「ハイブリット玄米食」なのです。ぜひお試しあれ!

2005年3月2日

 

第7回 米研ぎの時間

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 アンチ無洗米というわけではないけれど米を研ぐ(洗う)時間が僕ら人間の感性をも研いでくれているということを再認識してみてはどうだろうか?

 米は収穫された後、精米されおなじみの姿となって家庭にやってくる。米を炊く人間は必要量を測りその測ったお米を研ぐ。考えてみるとその数分間こそ人間が米と対話ができる唯一無二の時間なのである。春から夏そして秋の収穫までの約半年以上に及ぶ生長の記録を人間が持つすべての感性で理解し美味しいご飯に昇華するべく適切なサポートしなくてはならない時間なのである。

 サッと水を差し軽く濯いで水を切る。この時、平均14.5%の水分を持つ米は「待ってました!」とばかりに水を吸い込もうとする。しかしそれをこの段階で許してはいけない。雑味の原因である糠の溶け出た水を吸い込んでしまうからだ。水を切ったら即、米と米を擦り合わせるように掌(たなごごろ)で研ぐのだ。この時、物云わぬ米がほんの少しだけその重い口を開くのだ。「・・・・」五感でしか感じることのできない言語である。自らの生まれや育ちはもちろんのこと育ってきた田圃の様子、その年の夏の暑さ、寒さ、関わってきた人間の情熱、そして今何をしてもらいたいかを・・・。人間はそれらを感じつつ、すばやく、強くなく優しくない力加減で作業を進めていく。

 同じ米でもその日の天気やコンディションよって彼らの要求は変化するのだ。そんな厄介な要求をこともなげに日々こなすのが「あなた」という人間の存在だ。人間が存在することによって米もご飯になり、美味しいご飯を食べたいと望む人間の感性もまた米を研ぐことで磨かれる。こんな身近な生活の中に五感を総動員して挑まなければならないことを僕ら人間は日々やっている。今、そんな米研ぎの時間さえも「忙しい」という理由で省かれつつある。ますます感性の乏しい人間が増えていく。生活の中で感性を磨くなんてとてもカッコイイと思うのだがちょっと残念である。

 米との対話がうまくいき研ぎあがった米はようやく水と交わることを許され澄んだ水の中でゆっくりと乳白に変化していく。その有様はたとえようのないくらい美しい。米の感性と人間の感性がコラボレートして生まれたゲージツ作品と云ってさしつかえないくらい美しい風景です。

2004年12月6日

 

第6回 シンマイかコマイか、トオクかチカクか?

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 新米シーズンが始まる秋は米屋にとって喜びの季節とともに大いに悩む季節でもある。とくに7月下旬から9月中旬にかけての早期の新米が入荷する時期はことのほか神経を使う。それは一般的に思われているらしい「新米=美味しい」という図式が全くあてはまらないからだ。もっとも僕ら米のプロにしてみればこんな図式はもともと信用していない。あえて信用できそうなことを図式化するとしたら「良い米=美味しい」というところだろうか。今年(平成16年)のように新米がスタート時から安値の時はさらに神経を使う条件が増える。例えば美味しさがほぼ同じお米が2種類あるとしよう。そのお米の一方がで5000円もう一方が4000円だったらあなたはどちらを選ぶだろうか?しかも前者が古米、後者が新米だとしたらどうだろうか?よほど物好きな人でなければ、ほとんど人は4000円のお米を選ぶに違いない。今はまさにそんな時なのだ。

 だからといって古米がすべて魅力がないと云えば、それは間違いである。新入社員のようなフレッシュさはないものの、いい仕事している熟練の味を持つお米もある。こんなお米を「新米じゃないから」という理由で評価しないのはフェアではない。古米だとか新米だとかということを云々する前に、そのお米はどんなポテンシャルを持っているのか?という点に率直に向き合うべきではないだろうか。これをさらに進めて行くと、産地や銘柄のことも同様である。有名産地の有名銘柄でなくてはならない理由などどこにもなく、ただ良いお米で美味しいお米であれば良いのだ。もう少しはっきりとした云いかたをすれば「良いお米ならば氏素性は問わない」というわけだ。

 僕は以前から「日本一のお米は日本中にあり足元にもある」と実感してきた。よく人は良いものは遠くにあるような錯覚をする。離れているせいで細かい粗が見えにくいからなのだろう。しかしこう考えてはどうだろうか?「遠くを求める自分という存在は遠くに居る人にとっては遠くの存在」なのだということを。要するに「遠く=足元」なのだ。だからと云って足元のものがすべて日本一ではない。そこには一つだけ条件がある。「ちゃんとした目と確かな技術を持ち、人一倍稲が好きな人」という人の存在だ。そんな人の育てる稲は裏切らない。どんな場所でもその土地に最適な生長をし良いお米ができる。人が稲を育て、稲は米が作るのである。そんなお米ならば新米だろうが古米だろうが何処の誰であろうが美味しい良いお米に違いないはずである。

2004年9月20日

 

第5回 静岡市で買うお米って。

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 だいぶん前のことだがお米をテーマにしたクイズ番組を観てビックリしたことがある。「全国で市民一人あたりで最も高級なお米を食べている市町村はどこでしょう?」という質問だったように思う。その答えがナント!静岡市だったのである。もともと静岡県は県内産のお米を県民全員で食べるとわずか2ヶ月分程度の生産量しかないと云われるとおり残り10ヶ月分の消費量は他県から買っているということは知っていたのだが、その静岡県の県庁所在地である我が愛する静岡市の市民が全国一の高級米消費者とは思いもよらなかったのである。

 確かにこの地で長年商売をやっていて気が付くことだが良い意味で「米にうるさい人」が多いように思う。それは山海の食材が新鮮なうちに食べられるという立地ということから舌にきびしい人が多いということもあるだろうし、地方都市としてはそこそこ豊かな土地柄ということもあるだろう。そんなことからいい米を食べたい、米の味にもこだわる人間が多い=高級米消費者という図式なのだろう。

 そこで小生はこんな風に考えたのである。日本一クラスの旨い米は静岡市で探したほうがどこの街で探すより見つかる確率が高いのではないだろうかと、もっとひいき目に云えば、もしかすると我が安東米店に入荷しているお米の中にそういったお米が存在しているということじゃないだろうかと。かなり身勝手な解釈だがそう考えたのである。そんなことを思いつつ平成15年産の中で出来の良かったと評価をされた産地のお米を調べてみると、そのどれもが倉庫に入ってるなじみのある村や町から産出されたお米なのである。それを知った時、小生の仮説はまんざら間違っていないと確信したのである。

 日本一旨い米を売る町!なんて野暮ことを云うつもりはないけれど静岡市とそこに住む住人がその可能性を育んでいることは間違いないはずだ。一見地味で魅力が無さそうな、住んでる市民でさえ不満に思うことの多い静岡だけど、水道水が美味しい、日照時間が長く空が青い、美味しいお米が買える、などなど、こういう生活のベーシックな部分で充実していることこそ静岡の魅力そのものだと思うのである。旨い米を探すなら静岡、住むなら静岡ですよ。これホント。

 

第4回 絶滅危惧種

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 今や釜戸でご飯を炊いているというご家庭を街中で見かけることはなくなった。云わば絶滅危惧種と云ったところではないだろうか?その絶滅危惧種と云われる類のモノが我が家には存在する。「蒸し竃」(ムシカマド)と呼ばれる高さ60センチ直径40センチ、中央部分が膨らんだずんぐりとしたいでたちの陶器製。昔話で登場するおなじみの釜戸とは似ても似つかない姿である。店の入り口付近に鎮座するそれを見ても釜戸と思う人は皆無で大方の人は「これ何ですか?」という方ばかりである。そんな時には「これは釜戸なんですよ」と上部の蓋を開け中に据えられたお釜を見せる。すると皆一様に「オオーッ!」と感激しながら納得してくれるのである。こうして小生の蒸し竃ウンチクはスタートするのである。

 「炊飯とは煮る、蒸す、焼くという複合加熱によってお米のβデンプンをα化することを云うんです・・・」お米をご飯に変身させるためには釜内の温度をそれぞれある一定の時間に一定の温度に推移させる必要がある。現代の炊飯器ではその作業を熱源の違いによりそれぞれの特性を生かしつつ様々の方法で制御され今やほとんどマイコンで制御するようになっている。一方、「蒸し竃」はそんなマイコンはおろか電気でご飯を炊くなどという発想もない時代に生まれ、熱源は火。燃料は炭によるもので少ないエネルギーで理想の炊飯を実現するためにシンプルな方法を用いて釜内の温度を理想的な温度に推移させる細工がほどこされているのである。蒸し竃で美味しいご飯を炊くには電気炊飯器のようにボタン一つというわけにはいかないが何度か経験し湯気の出かた色、匂いの変化を見分けられるようになればびっくりするほど美味しくてちょっぴりおこげのある旨いご飯が炊くことができる。大手家電メーカーが巨額な研究開発費と膨大な時間を掛けて作ったハイテク炊飯器がたどりついた世界に蒸し竃はあたり前のようにそれ以上の世界をあっさりこなしてしまうあたりはさすが!と云うほかない。

 火を熾し釜を据え蓋をする。湯気の加減と匂いを見ながら釜の中を想像し頃合い見て蓋をする。手間ではあるが絶滅させるにはもったいない。こんなすばらしい道具を絶滅から救いたいと思うのは米屋だけではないはずである。

 

第3回 食ってみなけりゃ売らないんだよ。

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 昨今ではだんだんと珍しい商売になりつつある米屋という商売のスタイル。そのスタイルの基本は製造小売であること。

産地から生産者や卸会社を通して原料米を仕入れ、自前の精米工場で精米製造し販売する。パン屋で例えるなら自分でパン生地を作り自前の釜でパンを焼くホームベーカリーといったところであろうか。パン同様、その味の決め手は職人の技術はもちろんのことその原料の素材にあることは云うまでもない。

米は農作物である宿命でその品質は同じ産地同じ銘柄果ては同じ生産者であろうと均一ではなく常に不安定である。不安定であるが故にその原料の仕入れには慎重の上にも慎重を期す。そのために日々産地から送られてくるサンプルで仕入れた原料米を片っ端から食べてチェックするのである。ネバリはどうか?甘みは?舌触りは?香りは?そして価格対しての価値はあるかないか?というようにその米の持つ実力を舌で確認していく。去年良かった場所だから今年も良いだろうと思うのはご法度である。生産者には申し訳ないが案外裏切られることがあるからだ。

昨今では食味計という米の味を客観的に数値化する便利な道具もあるにはあるのだがその能力は人に勝るものではなく大雑把には判断できても自分にとって魅力ある米かそうでないか?あるいは店の味をどう表現するか?という店のアイデンティティに関わる微妙な判断はやはり自らの舌で確認するほかない。またそうでなくては製造小売の米屋のプロとは云えない。食ってみるまでわからないのがお米。だからこそ「食ってみなけりゃ売らないんだよ」と声を大にして云いたい。米屋という珍しい部類になった商売のスタイルとはこんなことを日々やっていることを知っていただけたであろうか?

 

第2回 ただ白くすりゃいいってもんじゃないんだよ。

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ほとんどの人は日々なんらかのかたちでご飯を食べていて、それも銀シャリと呼ばれる白米を炊飯したものを食べている。一般に米は玄米の姿で流通、貯蔵され消費されるごとに、あのなじみある白米の姿に搗精し選別された後に袋詰めされお米をお買い求めいただいているというわけだ。米屋のしごととは大雑把に云うとこの部分のを担っている。こうして文字にしてみるとさして難しそうに感じないのだが、その中に奥深い精米技術の妙があるってことをご存知だろうか?

 玄米を白米にする搗精技術には摩擦作用による方法と研削作用による方法を利用した2種類あり、また両者の長所を生かした方法もある。そしてこれらの技術を応用して様々な精米機が開発され美味しいお米の製品づくりに切磋琢磨しているのだ。ちなみに当店の場合は摩擦作用を応用した精米機によって製品づくりをしている。これらの搗精方式のすべては、米本来の持ち味を損なうことなく美味しさを追求した結果で、方式こそ違え米の美味しさに関わるある共通の要素を追求するがための技術といっていい。それを簡単に云うと「糠の残し方」にある。

 精白米とは玄米の胚芽と糠層(註)を取り去ったものいうのだが、この取り去り加減が美味しさに関わる重要な点なのである。胚芽と糠層を取り過ぎた米は味が淡白になり、いっぽう胚芽と糠層の多く残った米は雑味を感じる。美味しさのいい加減というのがあるのだ。しかもこの工程をできるだけ低温で行わなければならない。摩擦熱による熱変性も米の味を落とすからだ。これを機械が勝手にやってくれているかと云えばそうではない。多くの部分が自動化されたとはいえ、産地や銘柄など米それぞれによって硬い軟らかい水分の多い少ない、またその日の気温や湿度などによって微調整が必要なのだ。この作業は熟練した人間の感に頼ることが多く当店にはこの勘どころともいうべき技術を今年72歳になる父が頑固に守っている。

(註)胚芽と糠層:これらを総称して米糠と呼び、胚芽は玄米に対し重量比で2〜3%米糠全体では約9%にあたる。

 

第1回 夏でも倉庫は13℃なんだなー。

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最高気温35℃。聞いただけでもきびしい夏の日の午後、米屋の倉庫は夏休み受験生御用達の図書館より涼しいってことをご存知か?年間通して摂氏13℃を維持し最大二千俵(註)を在庫できる能力も持つこの蔵のことを「低温倉庫」と僕らは味もそっけもない名で呼ぶ。

 お米は収穫直後から老化の道を歩む。悲しいかな有名産地有名銘柄米であろうとそれは例外ではない。しかしその老化現象のスピードを緩めることのできる方法がある。それが低温による貯蔵なのである。米の老化の主な原因はお米の中にある酵素の活性や脂質の酸化そして微生物の繁殖などである。それらの老化現象を低温にすることで云わば休眠状態にすることができるのである。その適温が摂氏13℃湿度70%の環境なのである。湿度70%は意外に高いと思われるだろうが、これはお米の乾燥を防いでいるためで、平均14.5%の米の水分量を一定するために加湿は欠かせないのである。

 暑い夏の午後、低温倉庫に涼みに入る。汗は瞬時に引き、楽園気分を数分味う。長袖が欲しくなる頃にはまた35℃の世界へ舞い戻る。美味しいお米を売るには外に出かけなきゃいかんのである。

(註)1俵=60・お米は玄米で流通保管されている。