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水田徘徊、南伊豆。

 

七月二十七日。

 

南伊豆の若き生産家グループ中村さんらの田圃へ行った。5月31日以来これで2回目。
今日は彼らの田圃の師匠の一人でもある藤枝の松下にも同行してもらった。
朝方の雨は南伊豆に入ったとたんに上がった。晴れ男を自負する松下ならでは。

 

一番酷い田圃から見て行こう。

 

松下の第一声。厳しきも愛情溢れる彼らしい云いっぷり。
到着早々田んぼクリニックはスタートした。
10町歩ある中村さんの田んぼの主たる農法は有機。
だから稲の生長はもちろん草の問題など松下が培ってきたノウハウは彼らにとっては宝の山。
横で聞いてるとお説教そのものだが彼らの面持ちは真剣そのもの。

 

なぜ根付かないかがわからないんですよ〜。

 

耕作放棄地を再生したばかりの一年目の田んぼ。苗が2週間経過しても根付いていなかった。
考えられる答えはいくつかあったが周辺に目をやりながら松下からこんな言葉が出た。
アレロパシー。他感作用。
ついこの間までここに繁殖していたセイタカアワダチソウによるアレロパシーを疑った。
植物の生長を抑える物質アレロケミカル。
セイタカアワダチソウのそれが残留していることを想像したのだった。

 

なぜ分けつしないかがわからないんですよ〜。

 

耕作放棄地を再生して数年経過した田んぼの稲、ふつうなら20本ほどに分けつしているはずなのだが毎年12〜3本しかなかった。
この田んぼ周辺の森から流れ込む大量の有機物で窒素分は充分。葉色から判断してその点は問題ない。
なにせ無肥料で反収5俵も収穫できるパフォーマンス。まさにナイルの賜物状態。豊かなのである。
なのに分けつしない。分けつさえすれば目標の反収7俵は無肥料で実現できる。

 

松下は調査中の土壌分析で判った情報を踏まえた上でと念を押しながら微量要素を指摘した。
稲が窒素を取り込むのに必要とする相棒の何かが足りない。
その相棒を探すアプローチとして即効性のある有機物ではなく葉っぱなどの粗い有機物をイメージすること。
それと、田んぼの下の固い部分、耕盤(こうばん)の整備を指摘した。
すべての田んぼが深いからだ。
もともと川沿いの湿地帯であったようなところに田んぼを築いたようなところだった。
 だから栄養は豊富、けれど沼なのだ。

草取りをするスタッフの一人が膝下数センチのところまで埋まりながら作業している光景からも明らかだった。

稲が健全に育つ環境を作るには水を上手にコントロールすることがもっとも重要。
そのために平らにすること、きちんとした畦を打つこと、入排水の整備はもちろんだが、
その基本となるのは耕盤の整備。
とくにこの土地ではかなり重要であることを松下は指摘した。

 

来年春になったらローラーでしっかり固めてみたらどうだ?
道路の舗装で使うロードローラーでしっかりとした耕盤を作るんだよ。
不思議な光景だろうけど、ここではそれが必要だと思うな。

 

 

 

松下と水田徘徊をする度にいつもこう思う。

 

より良い農法とは、何処かの誰かが持っているのでなくつねに足元にあること。
足元にすべての答えがあるのだ。
まずはそれに気付くこと。
そしてどう対処すればいいかを考える。
そこではじめて、何処かの誰かの何かを学ぶ。
だけどけっして鵜呑みしない。
きちんと実験してその中から足元の田んぼにぴったりの何かを見つけるのだ。
それが自分の田んぼにしかない自分の農法になる。

中村さんには南伊豆でしかできない彼の農法を見つけてほしい。
それを掴めばきっと彼にしかできない風味風合いを持ったお米を生み出すことになるだろうから。
今、その黎明期を見ていると思うと楽しみでしかたない。
また見に行きますよ。
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2011年07月31日 [ 7093hit ]
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